「1番の近本（光司）が出塁したら、次の打者には普通ならバントをさせる。でも中野には打たせる場面が多かった。私は大学時代に2番だったんですが、あまりバントをしていないんです。そんな石山さんの野球を岡田も覚えているんじゃないですかね」

　3人の同世代がこう振り返る通り――岡田の采配の原点は早稲田時代に培われたのかもしれない。それはグラウンド内でのサインだけでなく、“情と非情”を柔軟に使う、人心掌握術にも見てとれると口々に語る。

岡田に内緒で遠征して京都にいたのに…びっくりしたよ

阪神で現役時代の岡田　©Sports Graphic Number

　石山が思い出すのは、岡田が阪神にドラフト1位指名されてプロ野球選手として戦っていた頃のこと。石山は早稲田の監督を務めた後、プリンスホテルの監督に就任していた。ある年の春、関西遠征をした時のことである。

ADVERTISEMENT

「開幕前の大事な時期なので、岡田に内緒で遠征していた。でも京都で飲んでいたら、どこかで聞きつけた岡田が早く練習を切り上げて私を探したらしい。〈大阪にはいないから京都かも〉と来たんですよ。なんて義理堅いヤツなんだと、びっくりしたよ」

岡田の早稲田時代の恩師・石山さん　©Takeshi Shimizu

　聞くとその後も、食事の席にはよく付き合ってくれるという。それは恩師の石山だけではなく、戦友の佐々木も同じ。数年前に大阪に遊びに出かけたときに声をかけると、岡田の姿は梅田にあった。

「ふと連絡したら〈空いてますよ〉と。梅田の曽根崎に知り合いがやってる店があるので駅を出て待ち合わせ場所にいたら、向こうから歩いてきた。知り合いのスナックにも連れて行ってもらいました」

　この種のエピソードは、枚挙にいとまがない。岡田の1学年下で、前桜美林高校監督の片桐幸宏（65歳）は母校の監督になってすぐの83年のことをよく覚えている。センバツに出たときに、岡田から連絡があって激励会を開いてくれたという。

岡田は、そういうところが気が付く男なんです

　岡田は気配りのできる人間――シーズン中によく出るメディアの〈そらそうよ〉〈おーん〉といったコメントからは想像できないほどの奥深さを、それぞれのコメントから感じる。そんな彼の一言で監督にアピールできた、と言うのは関口だ。

　岡田と関口らが大学3年になる直前の3月、アメリカ遠征が行われることになっていた。その時点でリーグ戦未経験の関口は、この遠征になんとしても参加したいと思っていた。メンバーに入れば神宮のベンチ入りも見えてくる。ある暮れの日、岡田ら仲間と飲んで、アパートに帰る前に安部寮で風呂に入ろうと寄ったときのことだ。岡田が飛んできた。

【次ページ】　「ここで湯浅か……って、しびれました」