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アウェイに向かう道中は赤信号ナシ、白バイに囲まれ扱いはプレジデント並…「NFLに最も近づいた男」が明かす本場アメリカでの“超VIP待遇”
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byGetty Images
posted2023/07/18 17:00
昨季でアメフト競技の現役引退を発表した木下。未だ彼の実績を超える日本人選手はいない
ロスター入りなら「最低でも」年棒3000万円以上
そうして2007年の7月、木下は憧れのNFLチームのサマーキャンプへと参加することになった。
「まずはキャンプに参加して、そこで結果を残せるかどうか。結果が出せればロスター入りか、プラクティススクワッド(練習生)としてチームに残る。練習生はシーズン中に誰かが怪我したり、上層部が『使ってみよう』と思った時にはすぐロスターに上がれる立ち位置ですね」
当時の契約ではロスターに残れれば最低でも3000万円以上の年棒が確約され、練習生でもシーズン通して帯同できれば最低でも1000万円以上のサラリーになる。マイナースポーツの域を出ない日本や欧州での待遇と比べれば、破格と言ってよかった。
また、金銭面以外でもフットボールの本場は驚きの連続だったという。
「まず施設が日本ではありえないレベルです。グラウンドが3面か4面くらいあって、室内グラウンドもある。トレーニングジムやミーティングルームも揃っていて、大学のキャンパスがまるまるフットボール施設のような感じでした」
キャンプ中はNFLで何年もプレーしていて現地に自宅を別に持っている選手でも施設に缶詰めにされる。そのため、ホテルのような宿泊施設ももちろんある。トレーニング場から宿泊施設までの送り迎えには、運転手つきの車が用意され、集中してフットボールだけができる環境だったという。
「一番印象に残っているのはアウェイゲームの時ですね」
道中の信号はすべて青……扱いはプレジデント並み!
アウェイゲームがある日は、施設からバスで空港まで移動する。1時間ほどの道のりを選手、スタッフが4台ほどのバスで向かうのだが、その周りを白バイがぐるっととり囲んで警備するのだという。道中の信号はオールグリーンに調整され、一度も止まらずに空港内の飛行機の下まで行くことができ、そこから直接機内に入ることができる。まさに超VIP待遇だった。
「最初は『どこ連れていかれんのやろ』って思いましたけどね(笑)。信号で止まらんって……大統領レベルやんと。本当にアメリカにおけるNFL選手の地位はすごいんだなぁと思いましたよ」
一方で、キャンプ生活の厳しさも尋常ではなかったという。
「日本からヨーロッパに行った時に中学生と大学生くらいの差があったという話をしましたけど、ヨーロッパとアメリカではまた同じくらいの差がありました。そこでも全然違うんだなと。もう肉体的にも精神的にも、気の休まる瞬間がないんですよ」
朝5時に起きると早朝からトレーニング。朝食、ミーティングを経るとまたトレーニング。昼食を食べたらまた練習があり、そこからは戦術ミーティングが続く。宿泊施設に戻るころには、夜11時を回っていたという。
「そこから電話帳くらいあるプレーブックを覚えないといけない。覚える量が日本の3倍くらいありますからね。結局、寝られへんぐらいの状況やけど、また次の日の朝になればリスタート。プレーに関しても日本だったら 7割ぐらいで練習を進めて、どっかで100%を出す……みたいなことができるんでしょうけど、当たり前ですけど全プレー気を抜けないわけです。向こうはすぐにクビになる環境だから、レギュラー陣だって全然練習で手を抜かないんですよね」