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将棋PRESSBACK NUMBER
「藤井聡太さんは負けた感想戦で笑顔に」渡辺明棋王との“死闘”で高見泰地七段が感じた“藤井・羽生将棋の共通点”「頓死を食らった時に…」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by日本将棋連盟
posted2023/03/11 06:01
棋王戦第3局で敗戦を喫した藤井聡太五冠だが、その後中2日で行われた順位戦A級プレーオフで名人戦挑戦権を手に入れている
高見 対局全体を通して、渡辺棋王と藤井五冠の強さをあらためて実感しました。渡辺棋王の作戦面の準備に対して藤井五冠もしっかり準備されて、お互いの準備は完璧に感じました。そこから力戦になったんですが、中盤付近から少しずつ渡辺棋王がリードを奪い始めて、棋王の試合運びの巧みさを感じました。それとともに感動したのは最終盤です。あれだけ形勢が揺れ動き、さらに盤勝負全体で見ればカド番に追い込まれている。人間なのだから焦りがあったとしてもおかしくないのに持ちこたえた。普通の棋士だったら正直なところ、流れを止められないと思います。
渡辺棋王にとっても大きな自信となるのでは
――渡辺棋王から見て、1分将棋で時間がない中での再逆転劇でした。
高見 そうですね。もう1回仕切り直して1分将棋で持ち直す。さすが名人・棋王と複数冠を持ち、永世竜王の資格を有しているほどの場数と経験値を肌で感じました。タイトル戦で修羅場を潜り抜けてきた数で言うと、現役棋士では羽生(善治)先生、そして羽生先生と数々の激闘を繰り広げた渡辺棋王もしかりです。盤勝負という意味で今後もおふたりの対局が続くはずですから、カド番でこれだけの激闘で1勝をつかみ取ったのは、渡辺棋王にとっても大きな自信となるのではないかと思います。
――藤井五冠の視点でお聞きしたいのは、いわゆる“形勢を少し損ねた”となって以降の戦い方です。
高見 藤井五冠と言えば――ファンの皆さんもイメージにあるかと思いますが――形勢を徐々にリードしていって、押し切る勝ち方が多かったんです。でも今回の渡辺棋王が後手番での強さを見せ、“粘って、粘って”という将棋を強いられても、藤井五冠は恐ろしいほどの強さでした。形勢が苦しくても粘る姿勢というのは、前にいるランナーをずっと追いかけ続けるようなものです。将棋は逆転のゲームとも言われますし、将棋を指すにあたって最も大切なものだとも思っています。ただ、忍耐強く我慢するのは大変なことで、それには強靭な精神力が必要だと思っています。その力を引き出した渡辺棋王の実力にも恐れ入るばかりですが……。
切り替えが上手い人は、次に勝つことを目的としている
――驚いたのは本局だけでなく感想戦もでした。対局直後は相当疲労して見えた渡辺棋王ですが、いつものキレのいい語り口を取り戻し、藤井五冠も柔和な表情を見せていました。