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「高3の日本選手権で生理に過緊張が重なって…」元200m日本記録、信岡沙希重が明かす“女性選手の苦悩”「現在、指導で意識しているのは…」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byAsami Enomoto
posted2023/02/23 11:03
2004年に200m23秒33の女子日本記録を打ち立てた信岡沙希重コーチ。現在、女子100m日本歴代2位の兒玉芽生を指導する信岡に話を聞いた
「一概には言えませんが、異性の指導者だと触りにくいかもしれない骨盤や腰のあたりを直接触って指導できるのは、かなりやりやすい点ですね。『ここを意識して』と口頭で伝えたとしても、選手と私の間で考えている部位がすれ違うこともあるので、実際に触れて伝えられることは大きいなと感じています」
確かにこの日の練習でも、口頭で細かく指導しながら、伝わりにくい部分は身体に触れて、正しい位置へと導く場面が多く見られた。
男女をまんべんなく見ることを意識
また、女子選手を指導する上で重視しているのは、“男子選手の指導で得た視点”を還元することだという。
「現役時代の後半はどちらかと言うと、男性選手の動きを見ているコーチに指導をしてもらいたいと思っていました。男性選手への指導をそのまま私にもしてほしいという気持ちがあって。福岡大の男子は女子と比べるとまだ弱いのですが、男女をまんべんなく見ることは意識していますね。
例えば女子の世界では10秒台なんてすごく遠いように思えますが、男子の世界で10秒台は高くない記録ですよね。そう考えた時に女子選手を指導する中から見た“10秒台に対するイメージ”だけでは駄目だと思っていて。男子選手の指導で“10秒台の速度”への感覚を得て、女子が感じる記録に対する壁を取り払うことは大切にしています」
兒玉選手を指導しながら「ああ、私もそうだったな」
ただ、兒玉と信岡の深い関係値は、女性同士の師弟関係による体調管理や技術指導面の利点のみで語れるものではない。元スプリント女王が自身の経験を生かして、現在のエーススプリンターの精神的な支柱にもなっている。トップシーンをけん引し、第一線で戦う喜びや重圧、苦しみも同様に味わってきたからこそ、兒玉の似たような思いに寄り添うことができるのだ。
「自分が競技者として波に乗っている時期は幸せではある一方で、本当に苦しかったなとも思うんです。自分で勝手に理想みたいなものを作り上げて、プレッシャーに追われていたというか……。なので彼女から『苦しい』という言葉が出たときは『ああ、私もそうだったな』と共感しますし、できるだけその感覚を取り除いてあげたいと思っています」
思考の整理には丁寧に付き合うようにしています
特に学生時代の兒玉は大きな試合の直前に、プレッシャーから弱気になることも多かった。そんな時、信岡は兒玉を無理に鼓舞するのではなく、気持ちに寄り添うことで、メンタル面をサポートしていった。