「メンタル面のサポートはしつつ、彼女はちゃんと考えられる選手なので、課題について一緒に整理をして、最終的に『今、何をすれば良いか』を理解させることができれば大丈夫です。彼女が迷いなく『こう走る』と決められるように、思考の整理には丁寧に付き合うようにしています」

負けることがあってもそれは悪いことではない

　今後、兒玉はトップスプリンターとして道を切り拓く中で、周囲から“勝ち続ける”ことを求められ、重圧がのしかかる場面に遭遇するかもしれない。ただ信岡は「目指す“世界”に近づくことに価値を置いて挑戦を重ねてほしい」と願っている。

「兒玉芽生という選手が理想に向かって成長していく過程で、国内の勝負を意識しすぎないで欲しいと思っています。負けることがあってもそれは悪いことではないですし、むしろ『勝たなきゃいけない』という感覚にはなってもらいたくない。どうしても勝負の世界においては、狙った試合の前でそんな気持ちが強く出てしまいますが、私自身はそれで自滅することもあったので（笑）。無駄なプレッシャーは減らして、真っ当に競技を楽しませてあげたいなという気持ちはありますね」

出てくる記録には過大評価も過小評価もしてほしくない

ADVERTISEMENT

　いま兒玉が見据えるのは、ブダペスト世界選手権100mの出場権獲得、そして11秒0台を出すことだ。日本女子として前人未到の領域に踏み出そうとする愛弟子に対して、信岡はこんなメッセージを送った。

「個人的には11秒1台をアベレージとして出せるようになることが先で、その延長線上に11秒0台が見えてくると思っています。仮に11秒1台の記録が出たら福島さんの日本記録を破ることになりますし、騒がれるかもしれません。ただ記録に対してはシンプルに受け止めて、過大評価も過小評価もしてほしくないんです。11秒3台から11秒2台に成長したように、彼女の目標に対して一歩一歩、着実に歩んでいってほしいと思っています」

#1から読む

「出ちゃったという感じ（笑）」21歳で100m日本歴代3位、兒玉芽生が振り返る「大分の“速く見えない”女子高生がスプリント女王になるまで」

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。