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那須川天心は世界王者になれるのか?「簡単じゃないけど…」「山中慎介さんに近いかも」葛西裕一と京口紘人が語る“ボクサー天心の可能性”
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byRyo Saito
posted2023/02/10 11:02
那須川天心に初めてボクシングを指導した葛西裕一と、2階級で世界を制した京口紘人が、“プロボクサー天心”の可能性について語った
「相手は年上のチャンピオンで、これは厳しい試合になると思いました。それで教えたのがボラード。本当は天心がボクシングに来てから教えようと思ってたんですけど」
ボラードとは、メキシカンがよく使う外側から大きく弧を描いて相手に打ち込むブローだ。オーバーハンドと呼ばれることもある。ボラードの名を広く世に知らしめたのは'12年12月、メキシコのスター選手フアン・マヌエル・マルケスが、4度目の対戦にしてマニー・パッキャオを失神KOして初勝利を掴んだ一撃。右と左の違いはありながら、那須川はこのパンチを習得して村越にTKO勝ちした。
「全部つぶされました」メイウェザー戦の苦い経験
実はこのボラード、6月の「THE MATCH」で、那須川が1回終了間際に武尊からダウンを奪ったパンチでもある。
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「ボラードは大きいのとショートの両方を教えて、武尊戦はショートのボラードです。キックってボクシングに比べて後ろ重心になる。そこからストレートを打ち抜くって難しいんですよ。その点、ボラードは後ろ重心からでも体重を拳に乗せやすい。あいつね、かわいいところがあって、教えたこと、練習したことを試合で絶対にやるんです。トレーナー冥利につきますよ」
キックで負け知らずの那須川が唯一“負けた”のが'18年大みそか、ボクシング界のレジェンド、フロイド・メイウェザーとのエキシビションマッチだ。わずか1回2分19秒でタオルを投入された苦い経験は、那須川が成長する大きな糧になった。葛西はそう考えている。