第99回箱根駅伝(2023)BACK NUMBER

「僕自身が満足していても、周りはそうとは限らない」 三浦龍司が見据える箱根駅伝とその先にある野望

posted2022/12/07 10:00

 
「僕自身が満足していても、周りはそうとは限らない」 三浦龍司が見据える箱根駅伝とその先にある野望<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

第98回箱根駅伝で2区を走った順天堂大学の三浦龍司

text by

和田悟志

和田悟志Satoshi Wada

PROFILE

photograph by

Yuki Suenaga

今や“世界の三浦”と言っても過言ではない。

トラックでは3000m障害を主戦場とする順天堂大学3年の三浦龍司は、同種目の日本記録保持者であり、2021年の東京2020オリンピックでは7位入賞の快挙を成し遂げた。今季は世界選手権オレゴン大会に出場。さらに、世界最高峰といわれる陸上競技のリーグ戦、ダイヤモンドリーグにも参戦し、ローザンヌ大会で4位入賞を果たした。そして、日本の中長距離種目で初めてファイナルに進出すると、その舞台でも4位入賞と存在感を示した。

大学に入学した当初は「世界で戦うビジョンは見えていなかった」と話す三浦は、ここまで、自身が想像していた以上の大きな成長曲線を描いてきている。

――2022年春先のレース後に「国際大会で入賞、優勝するというのは簡単なことではない。今年は現実を見る1年になると思う」と冷静におっしゃっていたのが印象的でした。東京2020オリンピックに出場し、世界の中での立ち位置をどのように感じたのでしょうか。

三浦 昨季は、初めての世界大会、しかも、オリンピックという一番大きな舞台を経験させてもらいましたが、そこに到るまでのステップは飛ばし飛ばしでしたし、自国開催ということもあって、勢いだけで来られた部分がすごく大きかったと思います。だからこそ、再びステップを進めていった先に、壁が必ず出てくるだろう、と思っていました。

 実際に、世界選手権では、世界の壁の厚さや、世界の強豪がフルで顔を揃えるなかで戦うことの難しさを思い知らされました。一方で、決勝に残るための駆け引きやレース運びなど、外国人選手の引き出しは圧倒的に多かった。僕はまだまだ学んでいかないといけないなと気づかされました。すごく刺激になりましたし、収穫が多い前半シーズンでした。

 その中でダイヤモンドリーグの出場権を得たり、ファイナルに進むこともできたので、ちゃんと成長している自分を見つけることができたし、来シーズンにつながる走りができたと思います。

トラックでは世界で活躍を見せる一方で、駅伝でも1年時から主力を担ってきた。箱根駅伝は、1年時が1区10位、2年時が2区11位と二桁順位。トラックの実績からすれば、もの足りなく映るかもしれない。だが、三浦が主要区間をしのいだからこそ、他のチームメイトが持ち場で力を発揮できたとも言えるだろう。実際、三浦が入学する前は予選会出場校だった順大は、前々回が7位、前回は2位と躍進し、優勝候補の一角に名前が上がるようになった。12回目の総合優勝を目指すチームにとって、三浦は絶対に欠かせない戦力だ。

――トラックで結果を残す一方で、駅伝はどのように考えていたのでしょうか。

三浦 学年を重ねるにつれて、駅伝の捉え方も変わってきているんですけど、1年生の時は、トラックから駅伝へと、1年の流れの中でスムーズにこなしていけるものだと思っていました。

 1年生の時はそれなりにうまくいったと思います。でも、2年生の時は、オリンピックを終えた後に気持ちが一段落ついてしまい、駅伝に向かう気持ちになかなかなれませんでした。それに、スタミナや走力の面でも、駅伝に合わせるのが難しかったなと感じました。

――逆に、駅伝に向けた取り組みが、3000m障害に活きていると感じることはありますか。

 

三浦が考える駅伝の難しさ

三浦 “サンショー”は、陸上競技の種目の中でも特異で、総合的な能力が必要です。障害を越えるスキルも、ミドル的な要素も、長距離的な要素もレベルを上げていかなければいけません。箱根駅伝に向けた練習は、スタミナ強化はもちろん、長い距離を走る上での強靱な脚づくりといった観点で、サンショーのタフさを養うのに役立っていると思います。

――三浦選手が求めるものが高いからこそ、余計に「駅伝に合わせるのが難しい」と感じたのではないでしょうか。

三浦 僕が求める結果というよりも、周りが求めるもののほうが大きいと思っています。僕自身が満足していても、周りはそうとは限りませんから。

 1年生の時の箱根駅伝は、もうちょっと粘れたかなとも思いましたけど、直前にケガがあったわりには、まずまずの走りでした。

 2年生では2区を走りました。起伏は苦手でしたが、日本体育大学の藤本(珠輝)さんと一緒に走って助けられたところもあって、僕としてはすごく満足度の高い走りだったと思っています。

 トラックでは自分ひとりを満足させられればいい。つまり、極論を言えば、自己満足できればいいのですが、チームで戦う駅伝ではそうではない時もあります。自分の満足と周りの期待とをうまく噛み合わせるのが、駅伝の難しいところかなと思います。

――今年度のチームは、学生駅伝三冠を目標に掲げています。出雲駅伝は5位、全日本大学駅伝は4位という結果でした。

三浦 この2大会を通して、自分たちのチームは、ミスは少なかったし、きちんとした走りはできたと思います。一方で、4年生に助けられている場面が本当に多かった。下の学年が、もっと意地を見せなければいけないとも感じました。起爆剤になるような選手が出てくれば、もっともっと上に行けると思います。

 僕自身は、2大会とも洛南高校の後輩でもある佐藤圭汰選手(駒澤大学)と同じ区間を走ることになり、負けたくないという気持ちがありました。出雲は佐藤選手に負けたのも悔しかったですけど、自分の走りができなかった。まだロードの走りができていなかったなと感じました。そこを修正して全日本に挑んだつもりでしたが、(佐藤選手と)力の差がまたちょっと開いてしまったと思いました。

――箱根駅伝に向けて状態はいかがですか。また、ご自身の役割をどのように考えていますか。

【次ページ】 「100回大会……ちょくちょく話題になっています」

1 2 NEXT

ページトップ