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「朝練でタバコは当たり前、 カンニングも頻出」不良サッカー部が高校日本一に… 土台は高圧的な〈指示、命令、思考停止〉からの脱却
text by
加部究Kiwamu Kabe
photograph byKyodo News
posted2022/09/11 11:00
2006年のインターハイで優勝した広島観音高校
「ちょうどタバコを吸った生徒がいて出場停止中でした。朝練習でのタバコは当たり前、カンニングも頻出でした。生活指導の先生からは『サッカー部員がいなくなれば、良い学校になるのに』と言われました」
そんな状態から畑は、選手たちが自主的に動き出すのを我慢強く待った。最初の数カ月間は、グラウンドに出るより部室周りを率先して片づけた。「綺麗にしなさいよ」と命じるのは簡単だ。実際に監督が厳しく躾けることで整理整頓が出来ている強豪校は少なくない。しかし畑はそれでは意味がないと考えていた。
「厳しく強要された行為には、思考が伴っていません。トップダウンに【指示、命令、思考停止】というキーワードがあるとすれば、ボトムアップは【任せる、認める、考えさせる】です。主体的、創造的、積極的に行動していくのが特徴で、結果は同じでも5年後10年後に大きな違いとなって表れてきます」
ボトムアップ方式でインターハイ制覇
畑はビジネスの分野を盛んに勉強して、そこからヒントを得てボトムアップ方式に辿り着いた。日進月歩のビジネスの世界で、スポーツ界以上にシビアな競争が繰り広げられている。生き残っていくにはトップに立つ人間の限られたパワーに頼るより、底辺(ボトム)から多様な意見を吸い上げ新しい活力を引き出していく方が、はるかに効率的だった。
《米国の企業は、既に9割近くがボトムアップ方式を活用していたのに、日本はトップダウン型が多く厳しい状況に置かれている》
彼我の相違を確認し、畑は選手の主体性を引き出すために、徐々にメンバー選考から戦術、トレーニングメニューの作成までを彼らに託していった。全体練習も週に3回(その後2回に減らした)に止め、オフ日の過ごし方も自主性に委ねた。
最初は懐疑的な視線が集まり異論を耳にした。
「週に2回の練習じゃダメだよ」「選手たちがメンバーを決めているようじゃ勝てるわけがない」
だが赴任して2年目には広島県でベスト4に入り、中国大会でも準決勝に進出する。
7年目の2003年にはJFAプリンスリーグの中国Aブロックを7勝3分けと無敗で制し、高円宮杯全日本ユース(U-18)選手権への出場を果たした。
選手たちに責任を持たせて「思い切りやって来い」
畑は引き続き自ら信じる道を歩み検証を続けた。3月の新人戦は、畑が指揮するトップダウン方式で臨み準優勝。だが2か月後に今度は選手主導のボトムアップ方式で出場すると優勝することが出来た。
《僕はしっかりとスカウティングをして臨んだけれど決勝戦では勝たせることが出来なかった。でも選手たちは、その負けた経験を見事に活かした。やはり選手たちの学ぶ力は凄い》
当時広島観音高校のサッカー部員は120名だった。