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「お前はユタカ・タケじゃない!」なぜ競馬学校の教官は“長手綱”にブチ切れたのか…武豊に憧れた元騎手見習いの芸人が明かすオーストラリア時代 

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松下慎平

松下慎平Shimpei Matsushita

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photograph byShimpei Matsushita/Sports Graphic Number

posted2022/08/20 11:00

「お前はユタカ・タケじゃない!」なぜ競馬学校の教官は“長手綱”にブチ切れたのか…武豊に憧れた元騎手見習いの芸人が明かすオーストラリア時代<Number Web> photograph by Shimpei Matsushita/Sports Graphic Number

元騎手見習いのお笑い芸人・松下慎平がオーストラリアの競馬学校で授与されたトロフィー。「武豊のようになりたい」という思いは真剣そのものだった

 日本の競馬学校では身長がネックとなった生徒も少なくない中で、ジョッキーとしては高身長の170cmでトップであり続ける彼は、そういった意味でも絶対的な存在だった。そのうえ、誰よりもレースに勝利する。考えれば考えるほど、己の理想として「武豊」の騎乗フォームをイメージしてしまう。私以外の皆も(ムキムキのポニーに乗っていた180cmの彼も)当然そうだった。誰もが武豊の代名詞とも言える長手綱を真似して乗ろうとしたのは仕方ないことであり、同時に悲劇でもあった。

“ユタカ・タケ風の長手綱”に教官が激怒したワケ

 授業で教わる基本的な乗り方は、手綱を短く持ち、ハミをがっちりロックして力で馬を抑える方法であった。理想と違いすぎる。皆がそう思ったに違いない。それを教えるライディング担当の教官が、身長150cmくらいでマッチョなパワータイプの元騎手であったというのも、思い返せば不運なことであった。

 今ならわかる。競走馬に乗る上で、最初はその乗り方が正解なのだ。手綱を緩めないということ自体は基本中の基本であり、それに加え、まずはレース用のハミのかかり方や口向きを体で覚えなければいけない。半ば筋トレのような乗り方は、騎乗に必要な筋肉を理解するという意味では後々必ず必要になってくる。基本を身につけた後の選択肢の一つとして、長手綱があるのだ。それがどれだけの技術と経験が備わっていなければ実行不可能なのか、私たちは理解していなかった。

 いや、元地方騎手の彼や、馬術大会優勝者の彼女は理解していた。だから教官の指示に従い、手綱を短く持ち授業をこなす。そんな彼らを、はるか下から見上げていた私を含めた他の生徒は、「あんなものは格好悪い」と見て見ぬふりを決めこみ、手綱を緩め、馬を制御不能にしてはポンポン落馬するのだから、教える側からすればたまったものではなかっただろう。そのため授業では「ユー アー ノット ユタカ・タケ」が飛び交うことになる。それでも若かった私たちは隙を見ては手綱を緩める。若さとは恐ろしい。一度痺れを切らしたマッチョな教官がレッスン中に全員の馬を止め、中央に集合させて大きな声で言った。

「リピート アフター ミー! アイム ノット ユタカ・タケ! セイ!」

 いつから英語の授業になったんだよ。私は心の中でつっこんだ。もちろん誰もリピートなんてしない。それに怒った彼は、その日のライディングの授業はそれで打ち切った。翌日全員で謝りに行ったのを昨日のことのように覚えている。それほどまでに、当時の私たちにとって「武豊」が絶対であったということを理解していただきたい。

【次ページ】 「武豊になれなかった男」が選んだ次なる道は…

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