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競馬PRESSBACK NUMBER
武豊に会いたくて阪大入学&お笑いの世界に…元騎手見習い芸人が振り返る“ニアミス事件”「あれから10年。成功の兆しは全く見えない」
posted2022/08/20 11:01
text by
松下慎平Shimpei Matsushita
photograph by
Keiji Ishikawa
新たな目標を芸人として成功することと定め、その先の未来で憧れの存在である武騎手と邂逅するため何をすべきか私は考えた。当時、今では掃いて捨てるほどいる高学歴芸人が注目されだしており、そのトップは今でもテレビ等で活躍している京都大学出身の先輩である。実力はもちろんとして、芸事はそれと同じくらい運の要素で成功不成功が大きく左右されることは何となく理解していた。ただ、経歴や特技で目を引けばチャンスは確実に増える。そう考えたうえで、高学歴というのは非常に魅力的であるように思えた。
ディープインパクトの敗戦で目標を下方修正
東大がベストだが、京大でも元騎手と合わせ技で一本ということにしよう。
そんな気持ちで受験勉強を始めたが、これが予想に反して楽しかった。元々ゼロからのスタートということもあり、成績が下がることはない。勝負事が大好きな性分なので、全国模試で自分の順位が上がっていくのが快感でしかなかった。とはいえ、ある程度で壁にぶつかり現実と向き合うことになる。模試の順位も上がらなくなり気持ちも萎えかけていた2005年、競馬界にピカピカに輝く無敗の3冠馬が誕生する。ディープインパクト。その背中にはもちろん武豊。「あぁ、私もあんなふうになりたかった」。彼らの走りを見るたびに喜びと後悔で心が揺さぶられたが、それはモチベーションにも繋がった。また会って聞きたいことが増えた。そんな想いで勉強に励んだ。
京都大学の合格率30%というところで、私の1年半の受験勉強はタイムリミットとなった。そこで分の悪い賭けにでるか、志望校をワンランク下げるかの選択を迫られることになる。とはいえ、腐ってもかつて異国の地で騎手を目指した自称勝負師である。京大受験がセオリーに決まっている。が、願書提出直前に観た武騎手とディープインパクトの有馬記念でのまさかの敗戦が、私に消極的な決断をさせた。それほどまでにあの敗戦はショッキングな出来事であった。「いや、お前がもっと勉強を頑張ってたらよかった話だろ」という正論には耳を塞いで話を続けたい。
私は志望校を同じ関西の大阪大学に切り替え、センター試験での権利取りに成功し、二次試験を経て合格を手にした。思い描いていた未来からは幾分違う結果になったが、合わせ技でギリギリ判定勝利といったところか。こうして、元騎手見習いの大学1年生(21歳・芸人志望)が誕生した。