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曺貴裁53歳に問う“欧州と日本のサッカーは違うのか”問題「正直言って悔しい」「僕はコンタクトで勝てると思っています」
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byKYOTO.P.S.
posted2022/02/25 17:01
謹慎期間中の1年2カ月の間、欧州サッカーを巡り、流通経済大学で指導をした曺貴裁。そこで感じた“ある違和感”とは
「監督も正面からぶつかるサッカーを避けてはいけない。守備に関して言えば、『どこで奪うか』ではなくて『どこの地点でも奪えないといけない』という意識が必要になってきます。昔はサイドに追い込んでここで奪って……という考え方もありましたが、ピッチ内すべての場所が“奪える場所”になっていないと世界では戦えない。それが出来なければどんどんスポイルされていくだけです」
そしてこれは“日本サッカー全体が方向づけていくべき道”でもある。プロリーグに限らず、小学生・中学生・高校生・大学生といった育成年代も同じ方向を向いていなければいけない。
「プロのカテゴリだけの話ではなく、これは小学校とか育成年代の草の根から徹底していかないと根付かない。どの分野でもそうですが、何かを達成するために可能性の高い近道を探そうとする傾向があると思います。それは全然悪いことではないし、色んなデータが揃う中でその精度が上がってきているのは事実でしょう。
ただ一方で、サッカーという競技は根幹となるルールが変わっていないわけですから、近道というものは存在しないと思っています。データもバトルを避けて勝つ方法を見つけるためではなく、欧州ではバトルをさらに効果的にするために使っているはずなんでね。僕もそこは履き違えないように意識しています」
「いつか指導者として欧州に行きたいですね」
プロを引退して育成年代の指導をしていた時には「Jリーグの監督になろうだなんて思っていなかった。プロの世界はどんなに思い通りにできても勝つか負けるかですべてが決まる厳しい世界だから、そんなところに自分が行くのは嫌だった」と振り返る。
それでも、日本のサッカー界を俯瞰し続けているのは、再びサッカーに対する気持ちを思い出させてくれた本場のサッカーに少しでも近づきたい、追いつきたいという強い想いからなのだろう。
「チャンスがあれば、いつか指導者として欧州に行きたいですね。リバプールのアンフィールドで指揮を執ってみたい。とにかくボール拾いでもなんでもいいんであそこに立ちたいですね(笑)」
年齢を重ねるとモノの見方がより現実的になるが、野心とともに純な気持ちを持ち続けていることは、湘南の頃とは異なり、人に頼ったり、助けを求められる曺本来の人柄を表しているようだった。
<#3へ続く>