曺貴裁53歳に問う“欧州と日本のサッカーは違うのか”問題「正直言って悔しい」「僕はコンタクトで勝てると思っています」

　日本でサッカーから離れるまで、曺にとってサッカーとは「仕事」だった。好きであることに偽りはないが、これからも同じ形でサッカーに関わり続けるのか――。複雑な心境のまま、何も決まっていない状態でサッカーの本場・欧州を訪れた。そして、いちサッカーファンとして欧州のサッカーに触れた瞬間、サッカーが自分にとってより大切なものになっていることを実感した。

「一度サッカーから離れたけど、欧州でもう一回サッカーを好きになれている自分がいました。もう一度、サッカーをやりたい。そう思った瞬間に、そのためにはどうしたらよいかと考え始めました」

流経大で指導「言葉一つ一つにちゃんと応えてくれる」

　そんな時、声をかけてくれたのが、大学サッカーの名門・流通経済大学体育局サッカー部の中野雄二監督だった。湘南時代の実績を高く評価し、指導者としての能力を認めていた中野監督は、研修の一環として曺をコーチとして招聘した。

「本当にありがたかったですね。中野監督をはじめ、スタッフのみんなにチャンスを与えていただいた。学生を指導していて、一番うれしかったのは、彼らが学びたいという気持ちで向き合ってくれたことです。

　あんなことがあった僕だからより警戒されたり、ちょっと斜に構えられたりするのかなと思っていたんです。だけど、みんな、僕がかけた言葉一つ一つにちゃんと応えてくれるんですよね」

2020年のアミノバイタルカップで初優勝を果たした流通経済大学。曺も中野監督に招聘され、チームを指導した　©AFLO

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　曺が指導した選手の中には、昨季からJリーグクラブに入団して新たにプロとしての道を歩み始める者もいる。その影響力は非常に大きかったようで、インタビューなどで選手は指導を受けた曺の言葉を大事にしていると答えている。

「プロに行く子たちがインタビューで『曺さんに言われたあの言葉が……』と言って紹介してくれていたんですけど、俺、そんなこと言ったかな？と思うこともあって（笑）。ただ、それだけ僕の言葉を受け止めてくれているんだなと。

　今年から鳥栖でプレーする菊地泰智に、『お金をもらえるような練習をしろ』とよく言っていたんですが、ある日『今日はお金をもらえる練習になったな』と菊地に言ったら他の選手が反応して、羨ましそうな視線で見ていたんですよ。『俺じゃないんですか？』というような（笑）。そういう一言に学生たちは敏感に反応して、一緒に歩んでいこうという姿勢を見せてくれた。……こんな状況だから行けなかったけど、上級生とは一度くらい呑みたかったなあ」

今季から鳥栖でプレーする菊地泰智とグータッチ。曺が指導した学生の１人である　©Getty Images

「サッカー人は時間があるなら育成年代を指導するべき」

　日々、自宅から1時間半かけてグラウンドに通い、学生たちと向き合うことでプロの監督を始めた頃の「初心」にも戻れた。もともと明確に目指したわけではないプロの監督業だったが、育成年代の成長する姿を見守り、選手の声に耳を傾け指導する。指導者を始めた時は、そんな感じだったな、と思い返した。

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