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「一番うまい鳥谷が一番、一生懸命に練習している」 恩師が称えた早大・鳥谷敬21歳… ずっと変わらない凄さと原点とは《引退》
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph bySankei Shimbun
posted2021/11/01 17:01
早大時代から“練習の鬼”だった鳥谷敬。そのストイックな姿勢が、遊撃手として歴代最長となる667試合連続フルイニング出場、歴代2位の1939試合連続出場という大記録につながった
続く秋季リーグ戦でも、鳥谷は打率.412で自身2度目の首位打者を獲得。しかも早大史上初の10戦全勝とリーグ4連覇を果たしたのだった。「早稲田スポーツ」の優勝号外で「早大無敵」とのタイトルをつけた――今思えば“ちょっと傲慢じゃない?”とも思うが、当時の野球部からはそれほどまでの強さを感じた。
それと同時に、ここまでチームが成熟できたのは、鳥谷の“練習の虫”ぶりが要因の1つなのは間違いないんだろうな……とも。
「一番うまい鳥谷が一番練習している」
秋のシーズンを終え、年を越した2004年初頭。4連覇の偉業を新聞で祝するためのコメント取りと代替わりのあいさつのため、野球部の寮を訪ね、野村監督の話を聞いた。様々な裏話を聞かせてもらいながら、再びたどり着いたのは鳥谷の練習量についてだった。
「今までの監督生活を振り返っても、間違いなく鳥谷は最も練習量が多いひとりやった。私から特段、鳥谷に何かを言う必要はなかったよ。その分、他の選手に対してはかなり色々と言ってきたがね。たぶん選手たちも“なんでこんな言われなあかんの”と思っているだろうけどな(笑)。
このチームで一番うまい鳥谷が一番、一生懸命に練習している。そら、みんなやらないわけにはいかんやろ。あの姿を見ていれば、みんながおのずと『自分もやらなければうまくなれない』と危機感を持つ。青木も、由田も。下級生の田中や武内(晋一)だってそうやった。キャプテンの比嘉が言動でチーム全体を包み込むようにまとめ、鳥谷の野球に貪欲な姿勢から刺激を受ける。そういった流れがあったからこそ、4連覇を果たせたんやと思ってますよ」
鳥谷が東伏見で見せていたストイックさは、当時21歳と思えないほど成熟したものだった。プロに入っても同じ、いやさらに磨きが掛けられたというのは、数々の報道で目にしてきた。また30代中盤に入ってからはイチローらの肉体を支えてきた初動負荷トレーニングを取り入れ、コンディショニング調整に余念がなかったとも聞く。その淡々黙々としたプロフェッショナリズムこそ、阪神や野球ファンの胸を打ったのだろう。
当時の紙面を見返すと、鳥谷のコメントは「個人的なことよりもチームの優勝に貢献したい」など、シンプルなものだった。ただそれとともに、この言葉が口癖だったとも記されてある。
「いつも通りに」
練習でも試合でも、それを貫くレベルが本当に、本当に高かった。大学時代の恩師である野村監督の言葉を思い出しながら、「いつも通り続けること」こそが鳥谷敬という名選手を形作ったのだと心から思っている。
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