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「大谷翔平と岸田首相、どちらの取材が難しい?」「報道番組に“スポーツ枠”は必要?」“報ステ”キャスター・大越健介に聞いた
posted2021/10/31 11:04
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph by
Wataru Sato
大谷翔平と岸田首相、どちらの取材が“難しい”?
――NHK時代も含めて、大越健介キャスターはこれまで多くの人たちをインタビューしてきたと思います。少し極端な話ですが、たとえば岸田文雄首相と大谷翔平選手を取材する場合、どちらが緊張するものですか。
大越 岸田首相をはじめ政治家は、自分の考えを言葉にすることが得意。それゆえ、こちらが聞きたいこと以上にアピールしてくることがあります。
かたや大谷選手の場合、「野球好きがそのまま大人になった」という意味で、例えばNumberさんなどスポーツメディアでは“野球少年”と表現しますよね。そのとおりなんですが、大谷選手は容易に言葉に出来ないようなことが彼の中にいっぱいあって。言葉を超えた世界で、緻密な努力を積み重ねているわけですから、私はそこを引き出したいと思うわけです。彼自身がうまく表現できない技量とかすごさ、そこを私の質問でどうにか言葉にできないものか、と。そういう意気込みがあったので、大谷選手をインタビューする時はとても緊張しました。その意味では、政治家よりも、野球選手をはじめアスリートの方々にインタビューするほうが、難しいかもしれません。
――実際に大谷選手をインタビューして、どんな印象を持ちましたか。
大越 何よりもすごく「誠実」な方でした。私が「あの打席はどうでしたか?」「それはこういう感覚ですか?」と質問しても、こちらに迎合して答えるようなことは絶対にしません。あまりにも自分の持っているものがすごすぎて、なかなか当てはまる日本語がないんだと思います。それをなんとか言葉にして、答えようとしてくれる大谷選手に誠実さを感じました。私にとって、稀勢の里(現・荒磯親方)と共通点があるように思うんですよね。
大谷と稀勢の里には「共通点がある」
――大谷選手と稀勢の里が似ている、ですか。
大越 彼の現役時代は、決して順風満帆ではなかったですよね。2017年に横綱に昇進して、同年春場所も優勝するわけですが、そこで決定的な怪我をしてしまう。以降は、本場所に出ては途中休場の繰り返しで、最後は現役を引退しました。その相撲人生は見ていてこっちの胸が苦しくなるくらい。でも当時のインタビューを聞いていても、どこかそっけなく感じるんです。今思うと、当時の稀勢の里は自分の思い、苦しさを言葉にできなかったんじゃないかと。