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「僕が戦犯でした」「だったら首振ってくれよ、と」横浜高時代の正キャッチャーが松坂大輔に《19年間聞けずにいた》こととは
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/10/20 06:01
松坂大輔(中央)と小山良男(左隣)は、いつもペアだった。それでも、小山には聞けないことがあったのだ。
「松坂は、自分のギアを上げることで抑えてしまう」
今、映像を見返してみると大西に打たれた直後、確かに松坂は眉間にしわを寄せて小山に何事か言っている。申し訳なさそうな表情の女房役が、この時の心境を振り返る。
「(4番の)古畑でギアを上げて抑えて、力が抜けたところで大西に打たれた。僕の軽い配球が悪かったんです。それで怒られたんですけど、だったら首振ってくれよ、と思いますよね。投げるなよ、と(笑)」
確かに小山の言う通りだ。春のセンバツでもPL学園と対戦した経験から「大西にカーブは危険」というデータが松坂の中にあったのであれば、サインに首を振ればいい。だが、この時も松坂はそれまでと同じように小山の要求通りに投げたのだ。なぜ、首を振らなかったのか。小山はこれまでそれを松坂に聞いたことはない。ただ、理由の見当はつけている。
「松坂は自分の中のギアを上げることで抑えちゃうんですよ。どんな球種であれ、打たれるか、打たれないかはエンジンをふかすのか、ふかさないのか。そういう自信があったと思います」
全力で投げさえすれば、どんな球でも打たれない。もし、小山の言う通りだとすれば、凄まじい自信である。ただそうであっても、延長に入り、あと1アウトで勝てるという状況ではより確実な球種を選ぶはずだ。だから、小山の胸には期待にも似たもう1つの見当がある。
「信頼されていた? そうなんですかね。そうなら嬉しいですが……。信頼してくれていたのかな……」
投手が松坂ならキャッチャーは誰でも同じ、と言われ
たいていの場合、圧倒的な才能は人を孤独にする。そのあまりの格差が接する人にコンプレックスを与えるからだ。そして、たいていの場合、怪物は孤高の道を行くことになる。
小山も高校3年間、いつも松坂に対して「申し訳なさ」を抱えていたという。
「僕が壊れても他に代わりのキャッチャーはたくさんいましたよ。一番、覚えているのはサヨナラ暴投ですね。スクイズを外す時のサインを決めていなかったんですけど、僕がテンパって立ち上がった。でも、あいつはちゃんとランナーを見ていて冷静だった。僕が戦犯でした。PL戦だって僕のせいで球種がバレて……」
2年生の夏、神奈川大会準決勝。一、三塁からのサヨナラ暴投は走者がスタートしていないのに外そうとした自分の焦りから生まれた。そして、3年夏のPL学園戦での序盤4失点は、自分の構えから球種を読まれていたのだと試合中に知った。周りの声が聞こえる。
投手が松坂ならキャッチャーは誰でも同じ――。
だから松坂が打たれた時はいつも自分の責任だと確信してきた。それでも松坂はいつも黙って小山のサインに頷き、1度も首を振らなかったのだ。