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「僕が戦犯でした」「だったら首振ってくれよ、と」横浜高時代の正キャッチャーが松坂大輔に《19年間聞けずにいた》こととは
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/10/20 06:01
松坂大輔(中央)と小山良男(左隣)は、いつもペアだった。それでも、小山には聞けないことがあったのだ。
松坂の才能は、人を遠ざけなかった
あのPL学園戦をあらためて見返してみて、気になるシーンがあった。延長13回2死ランナーなし。松坂のスライダーはワンバウンドになり、バックネットへ転がっていった。走者はいないのだから、通常はボールボーイが拾うものだ。だが、小山は消耗戦の最中にこれをわざわざ拾いに走った。なぜか。
「少しでも審判の方への心証を良くしたいと思って自分に癖付けていたことなんです」
小山はコンプレックスの中でも、松坂のために汗をかこうと思った。松坂の才能は人を遠ざけなかった。嫌になるくらいの差を見せつけられるのに、なぜか追いかけて、支えたくなる。そんな怪物のまわりには敵、味方を超えていつもともに歩く仲間たちがいた。
「松坂世代」という言葉が、どうしてこんなにしっくりくるのか。小山の話を聞いていると、その理由がわかるような気がした。
「首を振らなかった理由なんて今更、聞けないですよね……」
小山が抱える19年越しの謎。そこに答えは必要ないのかもしれない。