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《13年ぶりに五輪で金メダル》なぜパラ競泳・鈴木孝幸は 引退も考えた“リオの惨敗”から立ち直れたのか
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2021/08/27 17:04
26日のパラ競泳男子100m自由形にて、北京大会以来13年ぶりの金メダルを獲得した鈴木孝幸。
リオ大会、メダルへの期待の中よぎった「引退」
「(100m自由形は)しっかり自分の泳ぎはできたと思います。やっぱり平泳ぎでの負けは悔しいです。レースの直後はショックでしたが、時間が経って悔しさが増しています」
そしてこうも語った。
「大会を重ねる中で、リカバリーが難しくなっているので、今回はもう少し時間をかけていくと思います」
取材に応える場の空気は、重かった。鈴木に寄せられていた期待、あるいは応援する周囲の気持ちの表れのようでもあった。
鈴木はメダルを獲れなかったら、引退することも考えていた。
次の大会は東京だ。でも、世界のトップを争うことができないなら、意味があるのか、という思いがあった。
それでも現役を続行したのは、まだ成長できる、やれることがある、可能性はゼロではないと思えたからだ。
リオに滞在中、自身のレースを映像で振り返った。その中で、泳ぎに改善すべきところがあることに気づいた。
英留学も「チャレンジできることをチャレンジしよう」
先天性四肢欠損のため、下半身が沈みがちでそのために水の抵抗を受けてしまう。トレーナーらの意見も聞き、腹筋を鍛え体幹の強化を行い、沈みこまないようにすることで道は開けると考えた。
2013年からイギリスに留学、当地を拠点にしていた鈴木は、あらためて身体を鍛え、それに応じた泳法を模索した。
「イギリスにいる期間は2018年までの予定だったので、そこまでの2年間でチャレンジできることをチャレンジしよう、それがタイムにつながらなければ、そのままやめようと思っていました。タイムが上がらなかったらどうしようとかあまり考えず、積極的にチャレンジし、変化を取り込んでいった感じです」
チャレンジした成果に手ごたえを得つつ、東京へと進んできた。