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なぜバングラデシュに? 35歳日本人がサッカークラブ“市民兵”の主将として必死にスポンサー集めをする理由
posted2021/03/16 11:00
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph by
Yusuke Kato
1人の日本人助っ人がサッカークラブ消滅の危機を救う――これはフィクションではなく、実際に起こった話である。それもサッカーでは馴染みの薄い、バングラデシュという地で。
首都ダッカにホームを置く「ムクティジョダ」は1971年のバングラデシュ独立と密に関係してきた伝統あるクラブだ。クラブ名の意味は「市民兵」。パキスタンからの独立運動の源流を汲み、市民にとって身近かつ特別な存在でもあることを示しているという。
今季、そのムクティジョダで主将を務めるのが、この国にやってきて3年目を迎える加藤友介、35歳だ。
今シーズン開幕前、クラブは年間の運営費用である約5600万円を捻出できず、消滅の危機にさらされていた。チームメイトが1人また1人とクラブを去るなか、加藤は主将に任命された数日後から、自らスポンサー集めに奔走した。
かつては「アジアの最貧国」とも言われたバングラデシュだが、近年では人件費の安さを理由に多くの日本企業が進出している。そこに目をつけた加藤は日系企業を中心に営業をかけた。当然、その交渉は難航したが、自身のSNSであげた動画が流れを変えた。
「この国のアイデンティティに関係するクラブの消滅危機を日本人が救う。そんな活動がウケたのか、私の動画や活動は現地のメディアにも大きく取り上げてもらえて、それを観た日系の2つの企業がスポンサーが手を挙げて下さった。実は、バングラデシュは日本企業の多くが地下鉄や新幹線の発展に貢献しており、親日家が多い国でもある。そういった背景もあり、この国の人は日本に助けられている、という思いを持っている人が多いんです。
まだ年間の運営費用すべてが集まったわけではないですが、8割は補填できるところまできて、来季の存続も決まりました。少しでも運営費用の足しにしたく、2月からクラウドファンディングを行い、結果520万円が集まった。その大半は日本から集まったお金であり、本当に有り難いことです」