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「柱=バイエルン?」「善逸は危険な状態」スポーツメンタル専門医が『鬼滅の刃』を読み解いたら…… 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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photograph byIchisei Hiramatsu

posted2021/03/04 17:04

「柱=バイエルン?」「善逸は危険な状態」スポーツメンタル専門医が『鬼滅の刃』を読み解いたら……<Number Web> photograph by Ichisei Hiramatsu

ブラインドサッカー日本代表などでメンタルアドバイザーを務める、精神科医の木村好珠さん

「善逸は、メンタルがちょっと……危ないですね。お薬を処方してあげたくなります(笑)。普段、起きている状態はテンパっていて、思考がまったく働いていないので何もできない弱い状態です。でも、意識が飛んでしまうと、一転して強い自分が出てきます。ある意味、落ち着いた状態でもあるのかなとも思いますが、やはりメンタルは不安定状態だなと」

――やっぱり主人公・炭治郎のメンタルは安定していますか?

「善逸の真逆にいますね(笑)。誰よりも大人ですし、思考と感情のバランスがとても良い。映画『鬼滅の刃 無限列車編』で無意識の領域というメンタルの空間が出てきましたが、きれいな水面と青空がつづく風景は、彼の純粋さと安定さを的確に表現していたと思います」

鬼殺隊の柱=バイエルン?

――『鬼滅の刃』は柱(鬼殺隊で最も位の高い9人の剣士を指す)と鬼たちの壮絶な戦いがつづきますが、木村さんは、ここにチーム論が透けて見えるそうですね。

「企業で言うと、鬼は成長しないダメな組織の典型で、柱は順調に成長していく安定したメンタルを持つ組織と言えます。

 まず鬼は、チームでいてチームではないんです。なぜなら鬼は個々で戦っていて、一緒に戦おうとしない。鬼同士がお互いを蔑み、常に上のランキングを目指して、引き摺り下ろそうとする。一方の柱は、互いに意見を言い合う時間も作中で登場します。『心理的安全性』という言葉があるのですが、メンバーが不安を感じることなく、安心して発言・行動できる状態で、それぞれが自分らしく働いている、自然体であることを指します。柱は、まさにそういうチームですし、だからこそ強いのです。先述したバイエルンでも言及していますが、サッカーにおいても同じことが言えます」

――トップに立つ者の考え方でも差が出てきますね。鬼のボスである鬼舞辻無惨と柱のリーダーであるお館さまは、まったく思考が違います。

「サッカーの監督に当たる鬼のトップの鬼舞辻無惨は、鬼たちに指示しか与えていません。『柱を殺して来い』と指示ばかりで支援がないんです。でも、鬼殺隊の最高責任者である産屋敷耀哉は『信じているよ』と柱や鬼殺隊に声をかけています。『信じているよ』は人と比べるものではなく、自尊心、自己肯定感、自信など自分の力を認めた上で動機付けしている。鬼を殺すという指示を与えつつ、支援も怠りません。両方のバランスが完璧な形で整っています。トップとして非常に素晴らしいですね」

◆◆◆

 スポコン漫画ではなく、そこから遠いと思われる『鬼滅の刃』に、メンタル的な要素、精神的に特化している言葉や行動が見られるのは、非常に面白い。しかもこうした要素はきっちりと、キャラクターの個性として物語でも生きている。

 サッカー選手に『鬼滅の刃』ファンが多いのは、単純に面白いのもあるが、鬼殺隊が鬼と戦う中からチームとして戦うことの楽しさや難しさに共鳴し、最後まであきらめずに困難な敵に立ち向かう柱や炭治郎たちの姿に共感しているからかもしれない。

(【初回を読む】日本人選手は本当に“メンタルが弱い”のか? スポーツ精神科医に聞く「やっぱり長谷部はすごい?」「もったいない選手は…」 へ)

(写真=平松市聖)

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