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「柱=バイエルン?」「善逸は危険な状態」スポーツメンタル専門医が『鬼滅の刃』を読み解いたら……
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byIchisei Hiramatsu
posted2021/03/04 17:04
ブラインドサッカー日本代表などでメンタルアドバイザーを務める、精神科医の木村好珠さん
「先ほどもお話ししましたが、日本は謙遜が良いとされ、極端に空気を読むという文化が根付いています(#1より)。その結果、周りに流されやすく、自分の意見や思いを伝えられずにメンタルが不安定になるケースが多いのです。そんな時『自分の声を聞く』という作業はとても有効です。自分の心の声は本当にやりたいことを示してくれるからです。これが普通に出てくるのが『鬼滅の刃』のすごいところですね……」
――柱や炭治郎が使う「全集中」(呼吸を整えることで集中力を高める)と、選手が試合でマックスに集中する「ゾーン」もどこか通じるものがあるように思います。
「確かに全集中という行為はメンタル的にもすごくいいです。ただスポーツメンタル的に言うと、常にゾーンに入るというのは無理ですね(笑)。
そもそも人間の集中力は、20分ぐらいしか持たないと言われているなか、サッカーは90分間ですし、まして毎試合毎試合なんて不可能です。それよりも、自分をいかに100%に近い状態にするのかということを考えた方がいいと思います」
「自分の弱さに向き合う」ことの重要性
鬼滅の刃には、多くの名シーン、名文句がある。映画『鬼滅の刃 無限列車編』で、炎柱の煉獄杏寿郎が炭治郎に残した「心を燃やせ」「俺は君たちを信じる」は、多くの人に刺さった言葉だろう。木村医師にも個人的に非常に印象深い言葉があるという。炭治郎が不死川玄弥に残した「一番弱い人が一番可能性を持っているんだよ」という言葉だ。この言葉で自信を失っていた玄弥は再び、鬼と対峙していくことになる。
――この言葉は、木村さんに、どう響いたのでしょうか。
「自分の弱いところをしっかり認めてるんですよね。なかなか自分の弱さを認めるのは勇気がいることなんですが、自分は強いんだって思いこんでしまうと、自分を見失ってどうしたらいいかわからなくなっていきます。
玄弥は、この時、鬼殺隊の中では弱い方かもしれないですが、自分の弱さにちゃんと向き合っていますよね。弱いと認めた玄弥には、誰よりも強くなる無限の可能性がある。炭治郎は、そういうことを伝えたかったんだと思います。この言葉が登場したときも精神科医としてはかなり驚きました」
善逸は「お薬を処方してあげたくなります(笑)」
――メンタルという側面でこの作品を読むと、主人公の一人である我妻善逸はかなりのダメキャラで、メンタル的にもとても心配してしまいます。