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桑田真澄コーチ「9回135球」論の理想? 大野雄大、田中将大の“超効率投球”とメジャー最強腕バウアーの頭脳
 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byKyodo NEWS/Hideki Sugiyama/Getty Images

posted2021/02/14 11:01

桑田真澄コーチ「9回135球」論の理想? 大野雄大、田中将大の“超効率投球”とメジャー最強腕バウアーの頭脳<Number Web> photograph by Kyodo NEWS/Hideki Sugiyama/Getty Images

2020年の大野に2013年の田中、そしてバウアー。彼らのような投手が桑田コーチの「9回135球」論の理想像かもしれない

 桑田氏は「今の投手は球種は多いが、一級品だといえるものは少ない。 限られた球数の中でいい球を投げないと」と言ったが「投球の質」を上げることにより、球数を減らすことができると考えているのだ。そうした努力の結果として「9回完投135球」という数字が、手の届くところに来るということだろう。

1イニングあたり14.06球で抑える

 ちなみに1月になって楽天に復帰が決まった田中将大が、24勝0敗という空前の記録を残した2013年は、28試合27先発、212回を投げて2981球。1イニング当たり14.06球という驚異的なものだった。

 筆者は桑田氏の「9回完投135球」は、野球界への「新たなプレゼンテーション」であり、単なる数値目標ではなく投手の効率的な投球を重視する「新しい考え方」の提唱なのだと思う。

MLBではこれまでの野球観を覆す考え方が

 21世紀以降、MLBではこれまでの野球観を覆すような新しい考え方が次々と登場している。

 その先駆けは、映画「マネーボール」で有名になったアスレチックスだろう。ビリー・ビーンGMがセイバーメトリクスを全面的に取り入れ、「打率」よりも「出塁率」、「防御率」よりも「K/BB(三振数÷与四球数)」を重視し、年俸が低い無名の優秀な選手を集めて好成績を挙げた。

 その後、パイレーツはビッグデータを活用し、打者ごとの打球の方向性に合わせて野手に極端な守備シフトを敷かせた。また捕手は肩の強さやキャッチングよりも微妙なコースの球をストライクに見せる技術(フレーミング)に長ける捕手を採用。これによって永年の低迷から脱した。

 この考えが普及してMLB球団のほとんどで極端な守備シフトが採用されると、打者はこれを克服するためデータに基づいて「ホームランに一番なりやすい角度(バレル)でバットを振りぬく」ようになり「フライボール革命」が到来した。

 またレイズは先発投手を休養させ、救援投手のポテンシャルを引き上げるために「オープナー」という投手起用を編み出した。救援投手が先発して1~2イニングで降板し、以後は継投策で戦うという戦術だ。

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