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「イチローさんがいつかうちの高校にも…」ではダメ 元プロ野球選手による“球児指導NG”問題の根本原因
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2021/01/29 17:04
智弁和歌山高の選手を指導するイチロー氏
イチロー「自分に子どもがいても、教えられない」
2019年3月21日、感動のフィナーレで第一線から退いたイチロー氏は、その後、東京ドームホテルで開かれた引退会見の中で、この規定について、複雑な心境を述べている。
「アマチュアとプロの壁が日本の場合は特殊な形で存在しているのでね。どうなるんですかね、そのルール。今までややこしいじゃないですか。自分に子どもがいて高校生だとすると、教えられないですよね。そうすると変な感じじゃないですか。高校生なのか、大学生なのか、分からないですけど、そこ(指導すること)には興味がありますね」
今回のイチロー氏の智弁和歌山の指導は特例という形で認められている。なぜなら、この規定はプロの球団に所属していないということが条件だからである。イチロー氏はマリナーズに所属しているため、現行のルール上は認められていない。
日本高野連がそれを認可したのはイチロー氏の行動に、選手を勧誘する恐れがないと判断したからに他ならない。つまり、このルールが存在する理由は、かつて、日本のプロ球団がアマチュア選手の引き抜きを無理に行ったからであって、「指導」に問題があったわけではない。
必要なのは「勧誘行為の罰則」
規定すべきは元プロが「指導する」ことに対してではなく、勧誘行為が発覚した際の罰則であるということなのだ。
昨今、元プロの指導者が増えたこともあって、プロ・アマ規定は雪解けに向かいつつあると、言われ続けている。確かに、かつてのことを考えれば緩和の方向にあるのは間違いないが、イチロー氏のような人物までもがこの規定に引っかかること自体、本当に雪解けしたと言えるかどうかは甚だ疑問だ。
本気で野球界を改革するには、まず、この規定を「指導」から「勧誘行為の罰則」へと改めるべきだろう。裏金やタンパリングが発覚した際には当該球団はその後5年間の支配下ドラフトへの参加禁止。関わったスカウトらは野球界からの除名及び20年間のプロ球団登録禁止などが妥当だろう。
一人のスーパースターが欲しいがためだけに、5年もの間、ドラフトに不参加となることが何を意味するかは球団上層部にいれば容易に理解できるだろう。20年間の登録禁止も然りである。
イチロー氏の智弁和歌山の指導を「オフの関心事」としてはならない。彼がアメリカに戻った時にこそ、日本に残っている大人たちがこのルール、子どもたちのためになっていない規定を変える動きをすべきなのではないか。
(【前編を読む】なぜ田澤純一は“下位指名”すらされなかった? 日ハムスカウトの証言「新人選択会議という名称ですから…」 へ)