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「イチローさんがいつかうちの高校にも…」ではダメ 元プロ野球選手による“球児指導NG”問題の根本原因
posted2021/01/29 17:04
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
KYODO
日本が世界に誇った偉大なヒットメーカーの行動力にこみ上げてきたのは感謝の念と日本球界への不信感だった。
マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏が12月初旬、甲子園の強豪の一つ、智弁和歌山を訪れた。昨年に取得した学生野球指導資格を行使しての3日間の熱烈な指導風景はメディアの報道を通して見ても、実に、微笑ましかった。
イチロー氏が日米プロの世界で28年プレーした経験を余すところなく選手に伝え、教えを乞う智弁和歌山の選手たちも、着飾った言葉を並べるのではなく、人として、野球選手としての姿勢を大事にしていて、非常に良好な関係が見て取れた。
お互いに共通していたのは野球が好きだ、上手くなりたいという志だろう。
「イチローさんがいつかうちの学校にも…」ではダメ
元プロの選手が伝えられることは、アマチュアの指導者とのレベルの違い云々ではなく、その立場の違いだ。イチロー氏の行動はそのことを熟知していてのものだった。
現行のルールを最大限に活用した大きな「動き」だった。
シーズンのオフを利用してまでアマチュアの選手に関わろうとするイチロー氏のそうした行動力に感激する一方、野球界に関わる大人たちがすべきなのは「イチローさんがいつかうちの学校にもきてくれないかな」と指をくわえて待つことではない。
目を向けるべきは、世界を代表した偉大なヒットメーカーでさえも、歪な日本的ルールに従わないといけないという事実である。
元プロ野球選手が学生指導をするのに義務付けられるもの
イチロー氏がアマチュア野球の指導に関心があることが明るみになったのは、一昨年オフのことだ。同年3月に引退したばかりのイチロー氏は元プロ野球選手が学生を指導する際に義務付けられている「学生野球資格回復制度研修会」に参加した。
この制度は、長く断絶関係にあったプロとアマが歩み寄りを見せて、少しずつ是正されてきたものだ。それまで元プロ野球選手が学生指導をすることができなかったが、1984年から教諭経験が10年あれば指導が認められるようになった。その後、この教諭経験が5年、2年と緩和され、2013年に教員でなくても可能になった。それがイチロー氏も受けたこの制度だった。
「できるようになった」と捉えるのか、「しなければできない」とするのかは受けとる側の裁量次第だが、イチロー氏の行動を受けてもなお、指をくわえたままこの制度の存在を肯定してしまっては、今回のイチロー氏の行動の裏に潜む本当の狙いを受け取れないのではないか。