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「何で私がバードマンなんだ?」名レスラー、ダニー・ホッジ逝く…“ノールール最強”の異色な才能 

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高木圭介

高木圭介Keisuke Takagi

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photograph byAP/AFLO

posted2020/12/29 17:00

「何で私がバードマンなんだ?」名レスラー、ダニー・ホッジ逝く…“ノールール最強”の異色な才能<Number Web> photograph by AP/AFLO

オクラホマ大学時代のダニー・ホッジ

スポーツ・イラストレーテッドの表紙にも

 現在、YouTubeなどでホッジのアマチュア時代の映像が、レスリングとボクシングの両方で視聴可能となっている。レスリングのほうは、寝技で相手の手首を掴むや、そのまま長いリーチを活かしつつ、相手をひっくり返してフォールを奪うモノだった。
 
 大学生が圧倒的な体力差をもって高校生を組み伏せているならば納得だが、大学のトップレベル同士の対戦ではまず見られないシーンだ。レスリング時代から「普通ではない」握力を武器にして戦っていたことが分かる。だから、ホッジのレスリングを研究したところで、一般の選手にはまるで参考にならない。ホッジの握力や身体能力には、後天的に鍛錬して身につけたというよりは、先天的にリミッターが外れた強者のみが持つ「何か」が感じ取れる。 

 プロレス転向前の57年に『スポーツ・イラストレーテッド』誌の表紙を飾り、生まれ故郷のオクラホマ州ペリーに偉業を称えた銅像が立つのも、プロレスラーとしての実績よりも、むしろそれ以前の異色すぎるトップアスリート歴が称えられたものだろう。

リンゴを片手でつぶす82歳

 ホッジと最後に会い、インタビューさせていただいたのは6年前、東京・高円寺で『U.W.F.スネークピット・ジャパン』を主宰する宮戸優光氏の招聘で来日した2014年5月だった。

 当時82歳だったホッジは、ニッコリ笑顔で握手してくれたのだが、ウインクと同時にギュッと手を握られるや右手に激痛が走り、1週間は痛みが取れなかった。ホテルの部屋では得意とする、片手のみでリンゴを握り潰すパフォーマンスも見せてくれた。こんな82歳はなかなかいない。

 その来日時に、ホッジと久々の再会を果たし、握手を交わしたアントニオ猪木氏も、相変わらずの握力維持に驚きつつ「レスリングはもちろん、ボクシングも強かったし、あの時代に今でいうアルティメットみたいな競技があったら、凄い実績を残しただろうね」と語っていたのが印象深い。

代名詞的な技がない

 打撃と組み技で高すぎるスキルを持ち、プロレスラーとしても華麗なる実績を残しているホッジだが、ルー・テーズ=バックドロップ、ビル・ロビンソン=人間風車(ダブルアーム・スープレックス)、フリッツ・フォン・エリック=アイアンクロー……といった代名詞的な技は思い浮かばない。

 フリースタイルレスリングの「股裂き」の体勢からフェイントで相手の四肢にからみつくコブラツイスト(アブドミナル・ストレッチ)や、下半身を固めるオクラホマ・ヘイライドなども印象深いが、小学生がプロレスごっこでモノマネするような浸透度はなかった。
 
 本来はテクニシャンタイプなのに、披露されるパフォーマンスは「リンゴ潰し」と怪力系。それほど凄まじい握力を誇示しつつも、試合でクロー技を披露することもない。そして何よりも謎だったのが、「鳥人」なる異名だった。

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