濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「たまに頑張ると“エモい”なんて」 プロレスに全てを捧げた竹下幸之介がDDTで目指す“プロレスないない”
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2020/11/01 11:02
DDT竹下幸之介はすべてをプロレスにかけてきた。秋山との戦いを前に熱い思いを語る
強ければ“強さの象徴”になれるわけではない
お前はDDTの何なんだ、どうなりたいんだ。秋山にそう問いかけられて、竹下は「DDTの強さの象徴になりたい」と答えている。たとえば他団体との対抗戦になった時に「最後は竹下がいるから大丈夫」とDDTファンに信頼されたい。他団体のファンからは「DDTをナメたらヤバい。あそこには竹下がいるから」と思われたい。
ただ、単に強ければ“強さの象徴”になれるわけではないのがプロレスだとも言う。勝つことはもちろんだが「絶対的な条件は、いい試合をすること。いい試合ができなければ強さの象徴になれないのがプロレスなんです」。負けた選手に喝采が送られることも、劣勢だからこそ声援が集中することもあるのがプロレスだ。
そんなジャンルの中で、観客に残す印象すらコントロールするのがプロレスにおける“強さ”なのだと竹下は考えている。
「本当の強さがあれば、それこそ“エモい”試合をしようとした相手を潰してしまうこともできる。エモい試合になりそうだったことすらお客さんに感じさせないというね」
「こんなプロレス初めて見たな」が理想
秋山戦では、そうしたプロレスならではの強さが問われる。すなわち、イメージの奪い合いだ。譲れないのは、試合の“主語”であること。
「僕も二十何年プロレス見てきてるんで、分かるんですよ。僕が勝っても『秋山、敗れるも凄味を見せつける』みたいな見出し、ありそうじゃないですか。でもそうなったらダメなんです。それは“プロレスあるある”なんで。僕が目指してるのは“プロレスないない”ですから。僕が勝って、その上で“竹下も秋山も凄かったな。こんなプロレス初めて見たな”となるのが理想ですね」
秋山戦を通じて、竹下幸之介はこれまで以上にプロレスというジャンルの深淵に触れようとしている。試合を見るのが楽しみだし、試合を終えた彼の言葉を早く聞きたいとも思う。