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デアリングタクトの“ハイテンション”対策に陣営は何をした? 順風満帆ではない無敗3冠牝馬への道
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph byKyodo News
posted2020/10/16 17:00
桜花賞を制したデアリングタクト。さらにオークスも制し、無敗のまま秋華賞へ臨む
他馬のマークの中見せた並大抵でない力
圧倒的な支持を受けるという事は、それだけ他馬のマークも厳しくなるという事。17頭のライバルに執拗にマークされた事もあり、直線を向いた時のデアリングタクトはかなり窮屈なところを走らされる格好だった。前にも両横にもズラリと馬がいて、まるで包囲網を敷かれた様な態勢になったが、そこからまた並みの馬ではない面を披露する。
鞍上の松山弘平騎手が進路を切り替えつつ、空いているスペースを見つけると、エンジンを点火したパートナーは末脚一気。結果、2着のウインマリリンに半馬身の差をつけ、真っ先にゴールラインを通過。63年ぶりとなる無敗での桜花賞、オークス2冠制覇を成し遂げてみせた。
苦労もあった桜花賞馬になるまでの道
さて、このように成績を羅列すると馬の強さでいとも簡単に偉業を達成したように思われるかもしれない。しかし、実際に現場で対応する関係者に話を聞くと、決して全てが順風満帆に来たわけではない事が分かる。
「よくある事ですが、一度使われた事で気が乗り過ぎる感じになってしまいました」
そう語ったのは管理する杉山調教師だ。デビュー戦を勝利で飾った後、2戦目のエルフィンSへ向かう過程でだいぶテンションが上がるようになったデアリングタクト。エルフィンS当日の様子を、手綱を取った松山騎手は次のように語った。
「焦れ込んでしまいました。デビュー戦はおとなしかっただけに、一度使われて気負うようになったのかと」
「一度使われた事で気が乗り過ぎる馬はよくいる」と語った指揮官だが、だからと言って何も手を打たないような事はなかった。3戦目の桜花賞では、それまで使用しなかったメンコ(耳覆い)を装着させた。杉山調教師はその理由を次のように説明した。
「1週前追い切りの時もだいぶ気負ってしまい、こちらが考えていたような併せ馬が出来ませんでした。レース当日もそんな感じになっては良くないので、スタート直前のゲートへ行くまでメンコを着ける事にしました」
こうして無事に桜花賞馬となったデアリングタクトだが、陣営はこれに満足する事なく、続くオークスでは更なる手を打った。