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「きっかけはダルビッシュの復活?」プロ野球で今年すでに9人、トミー・ジョン手術“急増”の背景は? 

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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posted2020/09/30 18:31

「きっかけはダルビッシュの復活?」プロ野球で今年すでに9人、トミー・ジョン手術“急増”の背景は?<Number Web> photograph by AFLO

2015年にトミー・ジョン手術を受けたカブスのダルビッシュ有

「今季の大ブレイクを楽しみにしていたのですが、残念です。入団当時から肘の靭帯はゆるく機能していなかったようで、これまでは肘の周りの筋肉で関節のゆるさをカバーしていたのですが、疲労すると今回のような痛みが出てしまうようです。肘の靭帯が機能不全のまま投げている投手はいる(わしもそうだった)が、種市はまだ若いのでしっかり治して、また勢いのある投球を見せて欲しいです。話は変わりますが、肘の故障の原因は小中学生の頃、作ってしまっていることが多いようです。骨や靭帯が出来上がっていない年代の投球は、気をつけなければいけません。高校野球での投球数が取り上げられていますが、もっと下の年代から投球の質(強度)と量(球数)は大人が管理していかなければならないと思います。」

 昨今のトミー・ジョン手術は、成功率が高いものだと認識されていることが、吉井の言葉から理解できるだろう。

「80~90%の成功率はあるでしょう」

 古島医師は続ける。

「何をもって手術の成功というかにもよりますけど、元のように投げられるという点で言うとかなりの確率だと思います。ただ、トミー・ジョン手術だけじゃないところにも問題を抱えている選手がいるので、そこをどうみるかと言うのはあります。それでも、80~90%の成功率はあるでしょう。では、氏原さんだったら、何%の成功率だったら、手術を受けようと考えますか。以前は『このままだったら投げられないでしょう、手術した方がいいよ』という診断を下しても球団からGOサインが出なかった。もちろん、手術が増えることは良くないことですが、今の動きは前向きなことと捉えていいと思います。能力のある選手を救う手立てが残っているわけですからね」

 もっとも、この手術を全ての球団が容認しているというところまでには至っていない。いまだに手術するなら契約をしないと考えるチームはあるようで、結果、素晴らしい才能が力を発揮せずに終わってしまう事実はまだ残っているようだ。

「今、肘関節学会に行くと、朝から晩までの野球の発表で埋め尽くされているんですよ。この15年で何とかしなくちゃいけないという気運は高まっていると思います。これだけ認知されたのはメディアの影響も大きいと思います。日本人がメジャーで手術を受けたインパクトは大きい。断たれた夢をもう一度と思ってくれていると思います」

 医学の発展が野球選手を救ってきた。手術者が増えることが歓迎すべきではないが、復活できることに理解を示し、追随するチームが増えてくると願うばかりである。これはプロのみならず、球界全体に言えることである。

【続きを読む】「小中学校での投げすぎ」「ダメなのはスライダー」トミー・ジョン執刀医に聞く“ヒジを壊す元凶” へ)

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