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芥川賞作家を救った筒香嘉智のホームラン 横浜とベイスターズと日本プロ野球の「神話」
text by
高山羽根子Haneko Takayama
photograph byHideki Sugiyama/Miki Fukano/Takuya Sugiyama
posted2020/10/01 11:40
野球は長い間、横浜という街を熱狂させてきた
肉離れの須田と骨折の梶谷がピンチを救う
横浜が初めてCS(クライマックスシリーズ)に進んだ2016年、もう二度と見ることができないかもしれないと思って、広島に見に行った。今社会人野球に戻って大活躍している須田幸太投手が、当時肉離れから驚異的なスピードで回復してマウンドに立った。指を骨折していた梶谷隆幸選手は、その指をフェンスにぶつけながらのダイビングキャッチで、須田投手と共に絶体絶命のピンチを救ってくれた。ただその年は、結局日本シリーズには行けなかった。
もう二度と見られないかもしれない、の二度目は次の年にやって来た。次の年のCSは、雨でドロドロになった甲子園に応援に行った。勝ち上がり、そのまま広島への切符を買って応援に行ったらさらに勝ち上がったので、福岡まで行ってしまった(さすがに負けた)。のちにあの年のパブリックビューイングで見た内川聖一選手の値千金ホームランに「ああ、そうだ、彼はこういう選手であった」と思い知ったのだった。
ソウルで通りすがりに見たウィーランド
もともと旅自体は好きなので、海外に行くときその地域の野球を見に行くようにもなった。韓国や台湾は日本のようにプロリーグがあってペナントが行われているし、フィンランドではペサパッロという野球のようで若干違う球技が行われていて、それも見に行った。ソウルは日本のように、生活の中で野球が近くにある。半屋台の飲み屋街の店で、ビールやソジュを飲んでいる人たちの中で、大型の液晶画面あるいはプロジェクターによって野球中継が流されている。私は通りすがりに、
「なんかウィーランドさんみたいななげ方をしているピッチャーがいる」
とつぶやいた。立ち止まって、画面を凝視する。店で酒を飲んでいる人たちは、日本人が店の中を難しい顔で覗き込んでいることを奇妙に思っていたかもしれない。
やっぱりウィーランド投手だった。ホテルに帰ってテレビをつけ、ニュースをチェックすると、その日は負け投手になっていたようだった。なで肩で、腰の低めの、助っ人にしては珍しい安定感のあるフォームで投げる先発投手だった。韓国のプロ野球、KBOはDH制だった。ウィーランド投手は横浜での先発時代3本のホームランを打っていて、CSでは代打でも起用されている。