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斎藤佑樹、清宮幸太郎……進学とプロ入り、「甲子園ヒーロー」たちはどちらを選択すべきか
posted2020/09/22 11:30
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
KYODO
2018年の甲子園を沸かせ、その進路に注目が集まった金足農・吉田輝星。彼の前にも、聖地にヒーローが現れるたび、プロ入りか進学かが話題になってきた。本人の夢、家族の希望、球団の評価、関係者の思惑。彼らがいかに決断したのか、その分岐点を探った。
進学が既定路線だったものの、甲子園で活躍して注目を集めたために、プロに気持ちが傾く――。
今年で言えば、夏の甲子園で準優勝した金足農の吉田輝星がそうだった。
よくある話であると同時に、当然のことでもある。
甲子園における1試合は半年の練習に匹敵する、と言われることがある。言い過ぎかもしれないが、甲子園で数試合を経験した後の自分は以前とは「別人」と言っていいだろう。大舞台を踏み、そこで勝利を重ねた経験は「青年」を「大人」に変える。
吉田輝星 プロスカウトもこぞって「1位指名」
吉田はこの夏、3回戦の横浜戦の最終回に当時自己最速タイの150kmをマークし、自分の成長ぶりをこう語った。
「県大会の初戦で(150kmを)出したときは、力を入れて出したんですけど、このときは、疲れた中で、まったく無駄のないフォームで150kmが出た」
また、秋の国体では、それを上回る152kmをマークし、「腕が振れていた。これは出たなと思った」と振り返った。
吉田の体の中では、夏前とはまったく違った感覚が生まれているはずだ。プロスカウトもこぞって「1位指名」と評価する。
成長が著しいときに、背伸びをしてでも少し上のレベルに挑む。すると、さらに眠っていた力が目覚めるときがある。そうした瞬間は競技生活の中で、そう何度も訪れるものでもない。
プロに行きたがる高校生を大人は「若気の至り」ととらえがちだが、真に才能のある選手は、本能的に自分の「売り時」を知っているものだ。その瞬間を逃したくないというのは、アスリートとして当然の心の動きだろう。
過去、吉田と同じような境遇に立たされた選手は何人もいる。