スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
目黒区の町クラブ→欧州王者! セビージャで奮闘する日本人分析官の軌跡
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2020/09/17 11:50
EL制覇に貢献したセビージャスタッフ陣。若林氏は指揮官ロペテギらと共に写真に収まった。
分析の映像編集は夜までかかることも
1年目はフベニール(18歳以下)で練習や試合の撮影、編集を担当しながら、アナリストの仕事を覚えていった。最終的に同カテゴリーのトップリーグであるディビシオン・デ・オノール優勝に貢献したこのシーズンは「本当に学ぶことが多かった」という。
そして2年目を迎える昨夏には、トントン拍子でトップチームから声がかかる。本人も驚きの抜擢だった。
「正直なところ、いきなりトップに上がるとは思っていなかった。ロペテギ監督がアナリストを連れてこなかったので、自分にも話が来て。もちろん断る理由はないですし、トップに関われるというので、すぐOKしました」
ADVERTISEMENT
トップチームでは4人で構成されるアナリスト部門の一員として、日々のトレーニングの撮影と編集を担当。さらに対戦相手の選手個々の分析ビデオも作成していたため、朝7時半には練習場に到着し、夜まで編集作業に没頭する日々が続いた。
「2、3分ぐらいのビデオを1人ずつ作っています。リーガはある程度予測できるので、常に20人ちょっと分析しているんですけど、リストBの選手まで入ってくるヨーロッパリーグは難しくて。次の対戦相手がどちらか分からない時は苦労しましたね。例えばシャフタールがインテルとやっていた時はどちらも分析して、結局(決勝進出を決めた)インテルの方だけ残す」
「監督」という目標は変わらない
その苦労も報われ、セビージャは長いシーズンを最高の形で終えることができた。だが喜びもつかの間、チームはわずか2週間のオフを経て、慌ただしく新シーズンに向けて動き出している。
若林は今季もトップチームのアナリストを続けるが、「プロの監督としてチームを率いる」という将来的な目標は変わっていない。そのために今は、アナリストという立場から様々なことを吸収している段階だという。
「今もアナリストとして仕事をしているというより、毎日勉強をしている感じで。トップチームはこういう流れでやっているんだというのを勉強して、将来自分が監督になった時に、今体験していることを生かしてチームを率いたいなというのがありますね」