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流経大のコーチになった曹貴裁。
現場復帰への葛藤と変わらぬ熱さ。
posted2020/05/04 11:50
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
J.LEAGUE
北関東の茨城県で静かに再起への一歩を踏み出した。
昨年10月、スタッフと選手へのパワーハラスメント行為で湘南ベルマーレの監督を退任した曹貴裁は、今年3月から流通経済大のコーチとして現場に立っている。日本サッカー協会から指導者資格の公認S級コーチライセンスを1年間停止する処分を受けており、大学での指導は研修も兼ねる。現在は新型コロナウイルスの感染拡大による影響でチーム練習は休止しているが、約1カ月の間、真摯に学生と向き合ってきた。
その姿をずっと見てきた同大の中野雄二監督は感心しきりだった。
「チョウさんは練習から選手たちをやる気にさせる雰囲気をつくっています。学生たちの顔を見ていれば、よく分かりますよ。本当に楽しそうにサッカーをしているんです。映像を使ったミーティングを見ていても、諦めない姿勢を植え付けるのがうまい。ただ『走れ』と言うのではなく、いつどこでその意識を強く持つべきかを具体的に説明しています。だから、選手たちの頭にもすっと入っていくのでしょう」
「熱い気持ちはしっかり残っている」
湘南時代同様にミーティングで強調しているのは、人としてのあり方だ。流通経済大で20年以上指導し、110人を超えるプロ選手を育ててきた名伯楽は、しみじみと話す。
「チョウさんは教育者です」
いい意味での厳しさは消えておらず、チームの雰囲気が悪くなっていると思えば、カツを入れる。まだ遠慮が見えるものの、熱血指導は変わらない。ベテランの指揮官は、はっきり言う。
「熱い気持ちはしっかり残っている」
曹貴裁コーチの言葉は、早くも選手たちの心を捉えている。すでにベガルタ仙台に内定している4年生のアピアタウィア久は、充実感をにじませていた。
「『仲間に信頼される選手こそが一流だ』と言われて、1つひとつのプレーに責任を持つようになりました。チョウさんが来てから、僕も含めて全員の考え方が変わったと思います」