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流経大のコーチになった曹貴裁。
現場復帰への葛藤と変わらぬ熱さ。
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/05/04 11:50
流経大のコーチ就任以降、真摯に学生と向き合ってきた曹貴裁。サッカーへの情熱はそう簡単に消えることはない。
約1カ月の指導で変貌した流経大。
ヘッドコーチのような役割を担い、練習メニューから試合のメンバー選考まで一任されている。中野監督が口をはさむことはほとんどない。取り組む姿勢は、最初から本気だった。自主的に昨季の試合映像などを見てチームを分析し、トレーニングで修正したいポイント、新たに取り組みたいことをまとめてきた。
そして、約1カ月の指導でチームを見違えるように変貌させた。課題だった攻撃から守備の切り替えが早くなり、3月の練習試合では1部リーグの早稲田大、中央大、明治大にも快勝した。
「チョウさんの指導で学生たちは守備の面白さを感じるようになっています。守備からゲームを動かせるようになりました。今季は関東大学2部リーグで戦いますが、1部のどのチームにも負けないくらいだと思います」
流通経済大のグラウンドに立つ熱血漢の顔は、生き生きしている。中野監督は、その表情の変化を敏感に感じ取っていた。
すぐに首を縦に振ることはなかった。
昨年末に顔を合わせたときとは、まるで別人だ。待ち合わせの東京駅に現れた曹貴裁は、憔悴していた。デパートの静かな鰻屋で膝を突き合わせ、直接コーチの打診をしたときも表情は固いままだった。
「いまは現場に立ちたくないです」
すぐに首を縦に振ることはなかった。むしろ、距離を置きたがっているように感じたが、将来的に現場に戻る意思があるのかを確認した。あふれんばかりの情熱を傾けてきた指導者である。簡単にあきらめるはずがない。
「このままサッカー界から去るつもりはないです」
このブレない思いを聞き、間髪容れずに言葉を返した。
「それならば、研修を積んで、堂々とJ1の舞台に戻る形を取ったほうがいい。反省すべきことは反省し、指導をしてもらいたい。認定された事実は変えられないが、これをどう受け止めて、どう変わるかが重要だと思う。私もたくさん失敗したけれど、周りの人に助けられてここまできた。人は失敗した分だけ成長できる」