ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
中止と無観客が続く今だから考える。
猪木vs.マサ斎藤、巌流島決闘の意味。
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byEssei Hara
posted2020/03/01 19:00
レフェリーすらもいない状況下で戦った猪木とマサ斎藤。両者血だらけでフラフラな状態のまま2時間以上にわたる“死闘”を演じた。
2人にしかできないプロレス。
観客もレフェリーもいない2人の“私闘”は、両者血だらけでフラフラな状態のまま2時間以上にわたる“死闘”となり、最後はマサを絞め落とした猪木が2時間5分14秒、TKO勝ちを収めた。
「プロレスというのは観客の声を聞き、観客が求めるものを感じ取って、観客を沸かせるために闘うもの。でも、巌流島はその必要がないわけ。じゃあ、その中でどんな闘いができるのかっていうのを試されたんだよな。俺自身、最初はどうしたらいいかわからなかったけど、途中からはそういった余計な考えはすべてなくなり、俺と猪木だけの世界になった。あんな馬鹿な試合ができるのは、俺とアントニオ猪木だけよ」
最後の言葉には、マサ斎藤のプライドと試合に対する満足感が詰まっていた。そして猪木自身も、後年、巌流島の決闘を振り返って、次のような満足げなコメントを残している。
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「プロレス人気は落ちていたのに、巌流島の上空をヘリコプターが4機も旋回し、結果的に俺の離婚騒動に負けない大きな話題になった。一発逆転になったんだ」
あの時、猪木はどん底の精神状態に追い込まれながら、マサ斎藤とともに誰にもできないプロレスを見せつけた。それは「苦しみの中から立ち上がれ」という猪木の生き方そのものだった。