“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
異色のGM、水戸・西村卓朗の仕事。
選手とJクラブを育て、街を育てる。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/02/07 11:40
2019年9月に強化部長と兼任で水戸GMに就任した西村卓朗。地域を巻き込んだ取り組みに注目が集まっている。
「水戸」のポテンシャル。
「水戸も市原もクラブ構造は一緒。違うのは地域性。水戸という地域は納豆などの名産品もたくさんあるし、教育だったら弘道館(水戸藩にあった日本最大の藩校)があったりと、脈々と歴史が引き継がれています。交通面でも都心へのアクセスがいいですし、いろんなポテンシャルがあった。
最初の1年目はチーム強化面でどう現場を強くしていくか、いい選手に来てもらうにはどうすべきかを考えた。でも、そのためにはクラブ自体のマーケティングとブランディングも同時にやらないと、選手が来たいと感じる魅力的なクラブにならないと思ったんです。それができれば、ファン、サポーター、スポンサー、地域の人たちにとっても魅力的なクラブになる。Jリーグクラブは発信力があって、公共性も高い。それをいかに生かすか。強いだけじゃダメだと思ったんです。現場サイドとビジネスサイドが一緒になることが大事だと」
そんな思いを抱いた西村は、前述した通り、強化部長とGMを兼任。より表立って現場とクラブ、地域にアクションを起こせるようになった。すると“現場”の調子も上向いた。
クラブ価値と選手価値を高めたい。
昨シーズン、ホーリーホックは開幕から好スタートを切り、一時はJ2リーグ首位に立つなど好調を見せていた。最終的には、J1参入プレーオフ進出まであと1歩届かなかったが、黒川淳史、小川航基といったレンタル組の若手がブレイク。また、CB伊藤槙人は横浜F・マリノスに、DF志知孝明は横浜FCに、MF浅野雄也はサンフレッチェ広島と揃ってJ1クラブに巣立つなど、若手やベテラン問わず、選手のポテンシャルを引き出している。
「プレーオフに行けなかったことは、残念という言葉だけでは言い表せないほど悔しいです。それに(J1にステップアップした)選手たちには(今季も)残って欲しかったのも本音です。でも、どうしても補強費の問題がある。レンタルフィーを満額払って獲得できない現実もある。ただ、それに対して『資金がない』と嘆いたり、クラブ予算のどこかを削って強化費に充当することはいけないと思っています。
水戸はよく『予算が少ない中で生産性高くやっている』と言われますが、それはいつまでも言われてはいけない。それを誇っていても『すごいね』だけで終わる。あとクラブ内予算を削って強化費に持ってきても、肝心なクラブ職員が逆に厳しい立場になってしまい、それはクラブにプラスとなって返ってこない。だからこそ、予算規模も含め、クラブ全体を大きくしていかないといけない。地域におけるクラブ価値と選手価値を高めないといけないのです。
今回、移籍したり、元のクラブに戻った選手たちは『あの時の水戸があったから』と何かの折につけて言い続けてくれると思う。それもクラブとしても大きな財産。J1クラブを見ても、育てた若手が1、2年で海外に移籍するなど、流動性は避けられない今だからこそ、短かろうが長かろうが水戸というクラブでどれだけ選手に気づきを与えて、地域にみんなで育っていこうという意識を持たせられるか。僕の仕事はそこにあると思っています」