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サイン盗みの歴史とアストロズ。
手を替え品を替えた120年間。 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byGetty Images

posted2019/11/23 11:30

サイン盗みの歴史とアストロズ。手を替え品を替えた120年間。<Number Web> photograph by Getty Images

2017年のワールドシリーズ、アストロズの本拠地で行われた第3戦。ダルビッシュはその後、第7戦でも同じ1回2/3でノックアウトされ負け投手に。

地中からブザーのついた木の箱が。

 古いところでは、1900年のフィリーズ対レッズの例がある。場所はフィリーズの本拠地ベイカー・ボウル。主な登場人物は、フィリーズの三塁コーチを務めていたピアース・チャイルズとレッズの遊撃手トミー・コーコラン。

 試合中、コーコランは、チャイルズの足が妙な動きを見せていることに首をかしげた。1球ごとに足を同じ場所に置き、なにか波動のようなものを感じ取っている様子なのだ。

 コーコランは疑惑の地点に駆け寄り、審判の立会いのもと、地面を掘り返した。すると、どうだろう。地中からブザーのついた木の箱が現れ、しかもその箱は、長いコードでセンター後方にあるフィリーズのクラブハウスにつながっていたのだ。

控え捕手がクラブハウスに陣取る。

 クラブハウスには、控え捕手のモーガン・マーフィが陣取っていた。彼は双眼鏡を使ってレッズの捕手のサインを盗み、モールス信号の要領で合図を送っていたのだ。ブザーが1回なら直球、2回ならカーヴ、3回ならチェンジアップ、という具合に。受けたチャイルズは、三塁コーチャーズ・ボックスから打者に球種のサインを送る。

 この行動は、電気仕掛けのサイン盗み第1号といわれている。フィリーズの球団首脳は、3時間もだんまりを決め込んだあと、「球場でカーニヴァルを開催した際、業者が照明のスイッチを地中に埋めたまま、うっかり放置していった」と弁明した。苦しい言い訳だった。

 時は流れて1926年、「最高の技量と最低の人格」で恐れられた強打者タイ・カッブは、現役引退を目前に控えてこんなことをいった。

「頭のいい連中がサインを解析することには、なんの問題もない。ただ、道具を使ってサインを盗むのは、やはりアンフェアだと思う」

【次ページ】 80インチの望遠レンズで。

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