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サイン盗みの歴史とアストロズ。
手を替え品を替えた120年間。
posted2019/11/23 11:30
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
ヒューストン・アストロズが叩かれている。猛烈な非難を浴びている。2017年シーズンに、電子機器を使ったサイン盗みを行っていた疑惑が濃厚になったのだ。とかく噂のあった球団だが、今回は元アストロズのマイク・ファイヤーズの内部告発までもが添えられている。
ファイヤーズ(34歳)は2015年後半から'17年にかけて、アストロズに在籍した投手だ。'17年終了後にFAの資格を取得し、現在はアスレティックスで投げている。'19年の成績は184回3分の2を投げて15勝4敗、防御率3.90。ノーヒッターも達成した。
彼の証言によると、'17年のアストロズは、本拠地ミニットメイド・パークの試合で組織的なサイン盗みを行っていたという。
まず、センター後方の客席に、キャメラを持った職員を配置し、捕手のサインを撮影させる。その映像はベンチ裏のモニターに送られ、分析係が素早くサインを解読し、ゴミ缶を叩いて打者に球種を伝達する。
バスドラムのような重低音が鳴り響く。
たしかに、試合のビデオを見直してみると、観客の喚声に混じって、バスドラムのような重低音が、しばしば鳴り響いている。球が速いか遅いか、まっすぐか変化球か。それがわかるだけでも打者は優位に立てる。
調査に乗り出したMLBコミッショナーのロブ・マンフレッドは、「いまのところ、アストロズ以外の球団に波及していると見る根拠はない」という談話を発表したが、疑惑の霧はなかなか晴れない。
サイン盗みの歴史は古い。二塁走者が捕手のサインを盗んで打者に伝える古典的な手法などは、やっていないチームを探すのがむずかしいほどだ。もっとも、電気的な機器さえ使わなければ、この行為はアンフェアと見なされない。特段の禁止条例も制定されていない。