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<エールの力2019 vol.1>
山本昌「忘れられない大歓声の記憶」 

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2019/08/29 11:00

<エールの力2019 vol.1>山本昌「忘れられない大歓声の記憶」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

「ヤマ」に声援を送る小さな姉弟。

 マイナーリーグとはいえ、ベロビーチには熱心なファンがついていた。敗戦処理から始まった昌さんは、のちに代名詞となるスクリューをマスター。先発を任されるようになり、やがてエース格となる。

 小さなスタジアムは5000人のお客さんで一杯になり、好投するたびにスタンディング・オベーションを浴びた。日本では二軍でくすぶっていた昌さんにとって、それは新鮮で心の底から嬉しい時間だった。

 地元ファンから「ヤマ」と呼ばれて愛された昌さんに、やがてふたりの熱烈なファンがつくようになった。

「ぼくをよくパーティに呼んでくれた一家がいて、そこにステファニーとフレディという小さな姉弟がいたんです。あの子たち、ぼくが投げる日は必ずベンチ裏に陣取って、ものすごく声援してくれました。相手を抑えると大喜びして、反対に打ち込まれて降板すると泣いちゃう。あのふたりに喜んでほしい、そう思って必死にがんばったんだよね」

中日から届いた1通のファックス。

 連戦が果てしなく続くマイナーリーグ。シーズンは後期が終わり、チャンピオンシップを懸けたプレイオフが始まろうとしていた。

 前期優勝の立役者となった昌さんは、気合いを入れ直した。

「これに勝てば、ファンのみんなとの約束が果たせる!」

 だが、プレイオフが迫ったある日、思いもよらない出来事が起きる。

 昌さんの元に、日本から1通のファックスが届く。発信元は中日。優勝争いに必要な戦力として招集されたのだ。

 ベロビーチの優勝しか考えていなかった昌さんは、「帰りません」と一度はつっぱねた。だが、今度は電話がかかってきた。星野仙一監督直々の「帰れコール」。これはさすがに断れない。

 ステファニーとフレディ、そしてお世話になったベロビーチの人々に別れを告げる間もなく、昌さんは機上の人となった。

 そして快進撃が始まる。

 シーズン終盤だけで5勝を挙げ、中日の3番手として日本シリーズの大舞台に立つことになった。クビ寸前だった無名の左腕はアメリカで独り立ちし、20年後、200勝を達成するのだ。

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