マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
センバツより上手い二塁手がいた。
九州にプロスカウトが集まる理由。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/04/07 11:30
高校野球はプロに比べればエラーが多い。それだけに、フィールディングがうまい内野手はとりわけ目を引くのだ。
お目当ての選手は不完全燃焼でも……。
長崎では、九州トップクラスのスラッガーと聞いていた海星高・太田勇新捕手(3年・181cm83kg・右投左打)を楽しみにしていたのだが、相手バッテリーの徹底マークにあって勝負してもらえず、スイングできたのはわずかに一度だった。とはいえ、その一振りで上がったライトフライの高さに、この先の“夢”は感じた。
そして、代わりに目を引く選手が相手チームから現れるのだから野球は面白い。
長崎商の4番をつとめた藤本駿一三塁手(3年・181cm86kg・右投右打)だ。
「長崎ビッグN」と呼ばれる球場はその名の通り両翼99m、バックスクリーン122mに加えて、外野フェンスも高く、全国屈指のホームランになりにくいスタジアムである。
そのレフトフェンスの上空を、長崎商・藤本駿一は第1打席で高い放物線を描きながら越えて見せた。
その打ちっぷりの見事さに目を奪われた。1ボール2ストライクと追い込まれてからの右投手の内角速球だ。詰まらせて内野フライに、と投手が投げ込んだはずの勝負球を、とっさに両腕をたたみ込むと、絶妙のヒジの抜き方でバットヘッドを振りきった。
九州は、やっぱり才能の宝庫だ。
さらに、次の第2打席がもっと驚いた。
リリーフ投手の代わりばな、初球の速球を今度は体全体で包み込んで打ったように見えた。
体の開きをいっぱいに我慢したスイングから、今度の弾道はライナー。まっすぐにレフトスタンドに向かって伸びて、そのまま伸びっぱなしで突き刺さった。1弾目より左中間寄り、もっと深い所に突き刺さって、ワザというよりはとっさにバットをさばく“反応”の見事さにうなった。
ややゴツゴツ系に見えるたくましい体躯なのに、ショート前の緩いゴロを素早い出足でカットすると、そのまま柔らかい身のこなしのサイドハンドで一塁に刺したフィールディング。こっちも、アッと驚く意外性だった。
センバツの後の九州6日間。やはり、行ってみないとわからない。行ってみればよいことがある。
さあ一度東京に戻って、週末は「U18候補合宿」が待っている。