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「日本の筋トレ」と歩んだ34年・前編。
五輪、リー、マドンナが与えた影響。
text by
増田晶文Masafumi Masuda
photograph byAFLO
posted2019/03/17 11:00
マドンナの鍛え上げられた身体は、女性の美的感覚を大きく揺さぶるエポックだった。
ブルース・リーに憧れた男の子たち。
1970年代のスポーツに紐づいたトピックとしては'70年前後のボウリングブーム、そして'73年末に澎湃として巻き起こったカンフーの一大ブームがあった。
ことにカンフーブームは空手や拳法道場に、中高生男子がワンサカ押しよせるという特需景気を生みだす。「アチョーッ」と怪鳥音で絶叫し、ヌンチャクを振りまわし己の頭にぶつけてしまった日々は、私どもオッサン世代に共通の痛い思い出でもある。
この現象は『燃えよドラゴン』で主演したブルース・リーの存在なしに考えられない。リーは不可侵のカリスマであると同時に、肉体美における絶対的アンセムとなった。
リーのフィジークは、見事に発達した大胸筋と背筋群を誇り、厚みはないものの幅が凄まじい。典型的な逆三角形体型を具現化している。しかも、ぜい肉をそぎ落として筋繊維がくっきりと浮き上がり、求道者や修行者のもつ荘厳で哲学的なムードまで漂わせていた。
私は武道家としてのリーの魅力もさることながら、圧倒的な筋肉美に憧れた。彼のようになりたいと熱望した。後に筋トレにのめりこむのは間違いなくリーの影響だし、今も彼の身体が理想になっている。
もっとも、コンテストビルダーの視点からいえば、リーは絶対的に筋量が足らない。三角筋と上腕部、脚部はかなりバルクアップしたいところ。とはいえ、リーの厳粛な筋肉美は、あの痩身あればこそ。
『燃えよドラゴン』で共演した、香港のボディビルチャンプだったヤン・スエとのツーショットをみれば、カンフーマスターとビルダーが到達した筋肉のニュアンスの違いがよくわかる。
その後もスクリーンにおいて、'77年に『ロッキー』のシルベスター・スタローン、'85年はアーノルド・シュワルツェネッガーが『ターミネーター』で過剰な筋肉をみせつけた。だが、少なくとも私は、リーほどにはショックを受けなかったことを正直に白状しておこう。
(シュワルツェネッガーに関しては、筋トレにのめりこんでいた時期に『パンピング・アイアン』を貪るように観たことも告白する)
ランニングやエアロビが次々とブームに。
'70年代後半にはランニング、ジョギングブーム、ビタミンブームが巻き起こった。海外では、日本食こそが理想と持ち上げられたりもした。
ゲータレードを筆頭にスポーツドリンクの上陸も画期的で、飲み物に運動や機能性という売り文句が加わるようになる。
「からだにいいこと何かやってる?」
若かりし郷ひろみが、スポーツ飲料のCMでそんなメッセージをぶつけてきたものだ。この少し前まで、運動中に水を飲むなんてご法度だったというのに!
エアロビブームをポップスシーンから盛り上げた、オリビア・ニュートン・ジョンの「フィジカル」の大ヒットは'81年。
「ベストヒットUSA」で放映されたオリビアのミュージックビデオは、ヘアバンドにレオタード、ハイカットの運動靴という、いかにもないでたち。映像ではストレッチ程度の運動しかしていなかったけれど、それでも充分に説得力はあった。