One story of the fieldBACK NUMBER
ソフトバンクはなぜ勝ったのか。
「強さ」と「恐怖」の相関関係。
posted2018/11/06 11:30
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Hideki Sugiyama
今年の日本シリーズが始まる前、私の頭の中にあったのはソフトバンクホークスの大竹耕太郎という投手のことだった。いや、正確には彼の涙だった。
クライマックスシリーズ・ファイナルの舞台となったメットライフドームで打ち込まれた23歳のリリーフ左腕は、試合中のベンチで泣いたのだ。
重要な試合で打ち込まれた投手を見るのは初めてではない。ただ、涙を流す投手はあまり見たことがない。彼はなぜ泣いていたのだろう。
「自分の投げたい、投げ方ができなかった」
彼が残したコメントを見る限り、悔し涙なのだろう。ただ、プロが涙を流す理由としては、まだ何か釈然としないものが残っていた。
莫大なお金を使ってるのだから……。
日本シリーズでは広島でカープが先に1勝したものの、ホークスが福岡で逆襲に転じた。そして2勝1敗1分で迎えた第5戦のゲーム前、ソフトバンクの関係者と雑談をしていると、こんなことを言っていた。
「世間で言われるように、うちは確かにお金を使っていると思う。でも、お金を使うことの意味って、単に戦力を多く抱えたりするだけじゃなくて、これだけの環境を整えてもらったんだから、負けるわけにはいかないと現場に思わせることにもなると思う。つまり、現場から言い訳や逃げ道を排除することになる。うちの監督や選手は常にそういうものを背負ってやっているんじゃないかな」
この言葉は妙に耳に残ったし、ホークスの強さについて、大竹の涙について、もやもやしたものを吹き飛ばしてくれたような気がした。
その夜、シリーズの行方を左右する重要な試合で、工藤公康監督は鬼のような采配をした。