ぶら野球BACK NUMBER
森監督、伊東、辻、デストラーデ。
西武黄金時代には派閥がなかった。
posted2018/09/02 11:00
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph by
Koji Asakura
V9時代の巨人ってどれくらい強かったの?
子どもの頃、周囲の大人によくそんな質問をした記憶がある。長嶋茂雄の現役どころか、1回目の監督時代にも間に合わなかった。王貞治の現役の記憶もまったくない。
物心ついてからそれらをすべて野球史というより、“戦後昭和史の一部”として学んだ記憶がある。読書感想文の課題本に選んだのは、親にねだって買ってもらった長嶋さんの自伝『燃えた、打った、走った!』(講談社)だ。マジかよ……テレビで“ヘイ! カール”とか叫んでたおじさんは伝説の男だった。あの衝撃は今でもよく覚えている。
そして、自分がアラフォー世代に差し掛かった今、年下の野球好きから「黄金時代の西武ってどれくらい強かったんですか?」と聞かれることが度々ある。残念ながら、「アニメの『ちびまる子ちゃん』テレビ放送が始まった頃、『ファミスタ』でライオネルズの使用禁止ローカルルールができるくらい強かった」とか言ってもいまいち通じない。
かと言って、唐突に「このCM知ってる? ダダーン ボヨヨン ボヨヨン」なんつって絶叫しても意味不明だ。先日も西武ライオンズのレジェンドOBイベントの一環で、あのオレステス・デストラーデが来日。そのあまりのオールドファンの熱狂ぶりに、'94年生まれで20代前半の編集者はスマホを見ながら、「このデストラーデと秋山幸二と清原和博って誰が一番凄かったんですか?」と不思議そうだった。
“最強西武”のスタイルとは?
自分たちがONをニッポン昭和史として知ったように、彼らにとっては生まれていない30年近く前のAKD砲や西武黄金時代は完全に“平成史の一部”だろう。今回のぶらり書店を巡る野球本の旅は、西武ライオンズの黄金時代を率いた森祇晶元監督とそれを支えた選手たちの著書を両サイドから読んで、当時の“最強西武”の姿を検証してみようと思う。
ちなみに1980~90年代のプロ野球本は名監督=管理職に見立てたビジネス書が本当に多い。多すぎて、異なる本かと思ったらタイトルだけ変えた文庫版だったりするから油断できない。バブル経済を根っこで支えた部長や課長たちのバイブル。まだプロ野球の結果が、オヤジたちの間で毎朝のあいさつ代わりの国民的娯楽だった頃の話だ。
1986年からの9年間で5連覇を含む8度のリーグ優勝、6度の日本一に輝いた名将・森祇晶本もその手の構成が多く、例えば西武監督を辞任した直後に出版された『「勝ち続ける」ために何をすべきか―強い集団は、こう作る』(講談社)の帯には、「闘いに勝つ指導者はいかにあるべきか!」と“24時間戦えますか?”風なテンションで書かれている。