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体重2.8kg減、ザック重量5.1kg減。
TJAR「無補給」の末に見えたもの。
posted2018/08/25 17:00
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph by
Sho Fujimaki
「なにもかもが違っていたんです」
過酷な山岳レースを終え、十分な睡眠をとってもなお、ぎこちなく軋む体を椅子に沈めながら、望月将悟はそう話し始めた。
富山湾から日本アルプスを経て、静岡市大浜海岸にいたる約415kmの道のりを、自らの足だけで踏破する『トランスジャパンアルプスレース』。日本一過酷な山岳レースといわれるこの大会で、4連覇中だった望月将悟は今年「無補給」という新たなルールを自らに課した。
ルールで認められている山小屋や麓のコンビニ、自動販売機などでの飲食物の購入を一切断ち、スタートからすべての荷物を背負って進むという、前代未聞の挑戦だ。
結果は、完走タイム6日16時間07分、7位。自身の持つ大会記録(4日23時間52分)には及ばないものの、見事にゴールを果たした。
望月に今回のレースを振り返ってもらうと、こんな言葉が返ってきた。
「走りはじめてすぐに、こんなはずじゃなかったと思いました。食べられなくなったとか、動けなくなったとか、そういうことじゃないんです。根本的にすべてが違っていた」
装備はこれまでの倍以上の重さ。
8月11日、スタート数時間前。受付会場である遊園地「ミラージュランド」の隅に車を停め、望月は装備の最終チェックを行っていた。
可能な限りに軽量化を図るこのレースにあって、大会中の飲食物をすべて持つ望月のザックはこれまでに比べて格段に重くなる。エネルギー切れにならないようカロリーを考えて食料を持たねばならないし、かといって重すぎては体が動かない。
レース中の主な食事は好物のインスタントうどんに決め、12食分用意した。行動食は柿ピーやグラノーラをペットボトルに詰めたもの4本、飴、スポーツジェル、ナッツバターベースの補給食、ドライフルーツ、チョコレートといったものだ。
行動中の水分はほぼ水。休憩時に摂るものとして粉末スープや甘いドリンクなども詰めた。これらを1日分ずつプラスチックバッグに小分けしていく。レース中は食事に要する分も含めて、最大で4Lの水を背負うと想定している。
荷物の重さはスタート時には13.4kg(水2L)、水を増やすと最大で15.4kgになる。過去の大会ではザックは5kgほどだったから、2倍から3倍の重さというわけだ。
8月11日23時50分。真っ暗闇の富山湾に30人の選手と彼らを見送る大勢の人々が集まった。選手たちは円陣を組んで、これから始まる長い旅の健闘を誓い合う。他のトレイルランレースには見られない独特の高揚感だ。
その中で、望月将悟だけはどこか冷めた表情に見えた。楽しくて仕方がないときに見せる屈託のない笑顔はない。高いテンションのほかの選手とは明らかに違っていた。午前0時。カウントダウンとともに、スタートの合図が鳴った。
「じゃあ、行ってきます」
家族や友人たちにそう告げ、望月は静かにスタートを切った。