野球善哉BACK NUMBER
菊池雄星や吉田輝星と同じ、
浦和学院・渡辺勇太朗のある動作。
posted2018/08/16 16:30
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Hideki Sugiyama
高校に入って初めての完封勝利は甲子園の大舞台だった。
「左バッターに回ったら替えるぞ、と9回に入る前に監督から言われていたので、右バッターを必死に抑えました」
浦和学院のエース・渡辺勇太朗はそういってはにかんだ。
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2試合連続で先発を任され、得点差が開いたのは前回と同じだったが、二松学舎大付を相手に9回を1人で投げ切った。最後の打者をセカンドゴロに打ち取ったストレートの球速は144km。自己最速にこそ届かなかったものの、力のこもったピッチングだった。
「ギアが一段階上がるんです。ピンチになると球速が変わります。受けていてキレも違います。冷静に燃える……静かに闘志を燃やしているという印象です」
浦和学院の捕手・畑敦巳はこう話した。
勝負所を見極める投球スタイル。
この日、渡辺がもっともギアを入れたのは1回表だった。
先頭打者の一塁ゴロを野手がはじき、無死二塁。続く打者にも四球を与え、犠打で1死二、三塁のピンチを迎えた。
ここで渡辺が見せたのが、最速にあと1キロと迫る148kmのストレートだった。4番・保川遥、5番・畠山大豪を連続三振に斬って取る力強いピッチングだった。
渡辺はこのイニングを回想する。
「ストレートのMAXを気にしていたわけではありませんでしたけど、ピンチになると自分は燃えるタイプなので、絶対に抑えてやるという気持ちで投げました」
渡辺は4回表にも無死二、三塁のピンチを招いたが、畠山大豪、野村昇大郎から再び連続三振を奪う。続く有馬卓瑠をショートゴロに抑えて無失点に抑えた。「ピンチになると燃えるタイプ」とはいえ、勝負所を見極めてのピッチングスタイルにはプロ野球選手のような嗅覚の鋭さを感じずにはいられない。