JTバレーボール、大躍進の理由BACK NUMBER
JTマーヴェラス「昇格2年目で2位、一歩ずつ成長してきた」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byTadashi Shirasawa
posted2018/05/31 11:00
正セッターとして攻撃を組み立てる田中美咲。吉原監督の厳しい練習で大きく成長した一人だ。
吉原監督は練習で厳しさを徹底した。
試合ならば1本のパス、1本のスパイクで勝敗が決まるのは当たり前。練習でできないことを試合で発揮するなど無理なのだから、まずは練習で徹底して課題をクリアする。それが技術と体力、精神力を鍛えることにつながる、とあえて厳しい状況を設定しているのだが、相手の捉え方によっては意地悪だ、と感じられることも十分に考えられるのも吉原は熟知していた。
「私が現役の頃は、それぐらいの厳しさは普通でした。でも今と昔は違う。プレッシャーをかけながらも、一人ひとりをよく見て、今日はここまで追い込んでも大丈夫、と日々、角度を変えながら接するんです。だからその時も『5本中何本返すの?』と聞いたら『5本です』と答えるから、『じゃあ5本返すまで終わらないよ』と。
でも実際はなかなか難しいからもう1回聞くんです。『本当に5本でいいの? 何本返すの?』って。4、5回やり取りを繰り返して、最終的には『ご、いや、3本です』って(笑)。結局ちゃんとクリアして終わったから、今となってはコントみたいだったねって笑い話ですけど。でも、その時はお互い真剣ですよ。私を含めた全員が『お願い、クリアして』って思っていました(笑)」
もちろんただ厳しいだけでは、選手の意識は変わらない。それ以前とは明らかに違う変化を実感できて、それが偶然ではなく当たり前にできるようになった時、初めて意識が変わった、と田中は言う。
「ロングパスは苦手だったけれど、やり続ければ、ボールを飛ばせるようになるんです。あれだけ体がきつい中で練習してきたんだから、試合の中でも絶対できる、と自信が持てるようになりました」
意識が変われば行動も変わる。それまでは生活面に対しても無頓着だった選手たちだが、食事もきちんと摂るようになり、トレーニングにも積極的に取り組む。好不調の波はあり、まだまだ足りないと痛感させられた課題もあったが、'16/'17シーズンは13勝8敗で4位。前年がチャレンジリーグだったことを考えればまさに躍進と言えるのだが、その結果以上に吉原が「最も重要だった」と振り返るのが、勝っても負けても4位が確定している中で迎えたファイナル6の最終戦、日立との一戦だった。
「勝っても先がない状況でモチベーションを保つのは難しいですよ。でも、そこでいい加減な試合をしたら、絶対次にはつながらない。諦めるのは嫌だし、やりきってほしい。その1試合だけじゃなく、全力で戦って、勝つことで初めて『次につなげる』という意味がわかると思ったので、とにかく勝ちに行こう、と送り出しました」
結果は、フルセットの末の勝利。勝った喜びでも、プレミアリーグでの長いシーズンを戦い終えた安堵でもなく「次は絶対負けたくない」と悔し涙を流す選手たちに、吉原は新たな目標を掲げた。
'17/'18シーズンは本気で、何が何でも日本一になろう、と。