One story of the fieldBACK NUMBER
ノーコンは“不治の病”なのか。
ある雪国のエースが出した答え。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2018/05/11 11:30
開幕から4試合で0勝1敗、防御率5.40の不振で4月21日に二軍落ちした藤浪は5月8日の二軍戦で、7回を5安打2四球の無失点と好投した。
藤浪晋太郎は、技術の人だ。
翻って、今、藤浪晋太郎を思う。
他の人よりもずいぶんと長い四肢を持つピッチャーは思うようにボールを制御することができず、無期限二軍降格の渦中にいる。
現在、二軍の鳴尾浜球場で汗を流しているという藤浪の内面はわからない。舞台裏でたどってきた苦悩のプロセスも知らない。
ただ、イメージにある藤浪は技術の人だ。「たぶん、こういう感じ」という曖昧さを排除し、「今までこうだったから」という慣習にとらわれず、理論で野球を突きつめていく人だった。
藤浪は、それこそ雪国のエースとは全く違う。名門校で2年生からマウンドに立ち、全国の頂点を極め、プロの世界でも勝ち続け、まばゆいスポットライトだって当然の景色としてその目に映してきた。
今、藤浪の周りには、有り余る才能がもがいている要因を「心」であると指摘する声も少なからずある。
また、外から見ている者にとっては、金本知憲監督と藤浪の関係は、昭和の厳格な親父と、自分のやり方でそれを越えようとする息子のようにも映っているかもしれない。
無意味な議論を凍てつかせてほしい。
ならば、と思う。
甲子園を春夏連覇したピッチャーの心が、強いか弱いか、硬いか軟いか、などという無意味な議論を一瞬で凍てつかせてしまうような圧倒的な技術を見せつけてほしい。
親父が黙ってうなずくしかない、隙のない道理を見せつけてほしい。
それが何より険しい道であるということは想像しながらも、そういう姿が見たい。
世界に誇る技と理論の粋をあつめたところがプロ野球なら、そこに迷信めいた“不治の病”など存在してほしくないと思うから。そうでなければ、あの日、彼が出した答えがかすんでしまうから……。
「ノーコン投手」の響きは、あくまで草野球場に飛び交うから微笑ましいのかもしれない。