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センバツの流行は「バントなし」。
三重が大切にする打ちたい気持ち。
posted2018/04/07 07:00
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kyodo News
優勝した大阪桐蔭の西谷浩一監督は、今大会のトレンドは「バントなし」と「複数投手制」だったと振り返った。
前者の筆頭格は、ベスト4に残った三重と、8強入りした日本航空石川だろう。
日本航空石川の中村隆監督は、その理由を「1点ではなく、大量得点をとりにいっている」と語った。
ただ、それだけではなかった。明徳義塾戦、9回裏に0アウト一、二塁の場面では3番・原田竜聖に、答えを知りながらも「バントするか?」と聞き、「打ちます」という言葉と同時に能動的な気持ちを引き出して、サヨナラ本塁打を誘発した。
日本航空石川の積極性は、この一場面に限らず守りを含めた他のプレーにも感じられた。そういう意味で、バントをしないというのは単なる作戦ではなく、チーム全体に影響を及ぼしていた。
「みんなバッティングが好きなんです」
その傾向がより顕著だったのは三重だ。昨年夏に就任したばかりの28歳の小島紳監督は話す。
「みんなバッティングが好きなんです。打つために練習しているのに、そのチャンスをバントで奪いたくない。選手も『打ちたいです』って目で訴えてきますから。僕は現役時代『8番・捕手』とかだったので、いちばんバントを出しやすいタイプの選手だった。バッティングにも自信はあったんですけど、それをチームのためにという思いで抑え込んでいました。
目先のことばかりに気を取られると、1点取られたら早く追いつきたいがためにバントをしたくなる。だから、そこはトータルで考えるようにしてます。9回を通して、バットをしっかり振って、自分たちの野球をやり切ろうというイメージです」
準決勝の大阪桐蔭戦の前、小島監督に自分たちが上回っていると思う点は何かと問うと、しばらく考えたあと、こう言った。
「野球が好きだという気持ちだと思います」
送りバントをしない野球は、その最大の表現だった。