炎の一筆入魂BACK NUMBER
広島カープ、背番号「0」の系譜。
上本崇司が極める“切り札”の野球道。
posted2018/03/17 11:30
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
名作に名脇役がいるように、いいチームにはいい脇役がいる。
主力ばかりがスポットライトを浴びるプロ野球界で、あまりスポットライトを浴びることのないユーティリティーや切り札と呼ばれる選手たちが陰ながらチームを支えることもある。
長嶋清幸から始まった広島の背番号「0」は、そういった選手たちの歴史と重なる。
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高信二、木村拓也、井生崇光、そして上本崇司。ただ、入団時から背番号「0」とともに、その使命を背負っているのは、上本ただ1人だ。
地元広陵高から明大を経て、'12年のドラフト3位で広島に入団した。打撃には課題を残していたが、高い守備力と俊足を買われた。
入団1年目から守備固めや代走として30試合に出場した。チームとして必要な役割も、選手としてその役割を受け入れることはまだできなかった。定位置取りを目指し、持ち味の守備力を磨き、課題克服のためにバットを振った。
ただ、現実は厳しい。'13年はスタメン4試合に終わり、田中広輔が入団した'14年のスタメン出場は0。'15年はプロ入り初めて一軍に上がることもできなかった。
「レギュラーにこだわって、割り切れないと……」
「いくら守備と走塁が良くても、打てないと(一軍に)上がれない。試合に出られる人は打てる人なんだって、守備と走塁もおろそかになってしまっていた。自分を見失っていましたね」
心に溜めた不平や不満は、気づかぬうちに言動に表れる。
上本は二軍でもエラーや悪送球をするようになり、簡単な走塁ミスやサインミスなどが見られ、遠征先から広島に強制送還されることもあった。
代走と外野の守備固めのスペシャリストである赤松真人は、上本の気持ちを理解する1人だろう。
「選手なら誰だってスタメンで出たい。当たり前のこと。でも誰もが出られるわけじゃない。そのときに自分は何で勝負できるのか。レギュラーにこだわって、割り切れないと中途半端になってしまうことがある」
上本はあのとき、プロ野球人生の岐路に立っていたのかもしれない。