炎の一筆入魂BACK NUMBER
広島カープ、背番号「0」の系譜。
上本崇司が極める“切り札”の野球道。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2018/03/17 11:30
9月6日の阪神戦。連覇へと繋がるワンプレーとなった上本の二盗。
切り札として生きる者の宿命とは?
暗闇に一筋の光を射してくれたのは、河田雄祐外野守備走塁コーチ(現ヤクルト)だった。
'17年シーズン前に本職ではない外野の守備を「やってみないか」と声をかけた。
「内野の動きを見て、外野もできるんじゃないかと。あいつを生かすためにもね。ノックを受けさせても反応がいい」と同コーチは振り返る。退団する広島へ置き土産とばかりに、外野ノックを浴びせた。
ADVERTISEMENT
チームメートからも背中を押され、外野挑戦で自分の生きる道がはっきりと見えた。'16年も'17年もスタメン出場はない。それでも、上本は新たな居場所で輝くための準備を続けた。
「レギュラーはたとえミスをしても挽回できるチャンスがある。でも僕はミスをしたら二軍。もう使ってもらえない」
ミスが許されない。
切り札として生きる者の、宿命だろう。
毎日のように球場に一番乗りしていた上本。
自己最多の37試合に出場した昨季、本拠地試合では毎日のように球場に一番乗りした。全体練習前に行われる特打には「邪魔してはいけませんから」と参加しなかったが、特打開始前には屋内ブルペンで1人、打ち込んでいた。
鈴木誠也や西川龍馬らが特打で打ち込むときには、すでに外野グラウンドに行っており、そこで入念にストレッチやショートダッシュを繰り返していた。円陣で「にゃんこスター」のお笑いネタを披露したり、チームメートの物まねをしたりと、注目されがちな盛り上げ役というキャラクターは上本という人間の一端にしか過ぎない。
人知れず、流してきた汗がある。
出番は試合終盤。しかも何もできないまま終わる日もある。
それでも、あの局面で平常心でいるためには、やらなければいけないことがある。一瞬の輝きは、長時間積み重ねてきた努力によって生み出された結晶なのかもしれない。