ニッポン野球音頭BACK NUMBER
阪神と3.5差、見え始めた逆転2位。
DeNAと嶺井博希に漂う頼もしさ。
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byKyodo News
posted2017/09/26 17:30
敵地甲子園での阪神戦で攻守両面にわたる活躍を見せた嶺井。ハマスタでの3連戦でも……そう期待するファンは多いはずだ。
ラミレス監督の評価は日に日に変わってきている。
その思いはいまも変わっていないが、敵地での2試合を見ていて「1人挙げるなら嶺井だ」と感じた。試合をつくるという最重要ミッションを担う先発投手は毎日変わるが、最近の起用傾向からすればスタメンマスクの一番手は嶺井。配球だけでなく精神的な面でも投手陣をいかにリードできるか。嶺井のプレー、判断、振る舞いひとつで、試合の様相は大きく変わってくるのではないかと思えるのだ。
昨シーズン、捕手間の競争はルーキーだった戸柱恭孝を中心に回り、嶺井は弾き出されるように二軍でほとんどの時間を過ごした。そして今シーズン、アレックス・ラミレス監督からの評価は日を追うごとに明確に変わってきている。
当初、高城俊人も含めた3捕手の中で「打撃が最も期待できる」ことが、嶺井が起用される最大の理由だった。それでも対右投手の打率が低いため、相手先発が右腕だとその理由もなくなり、出番はおのずと限定的なものになった。
ただ、マスクをかぶった試合では着実に結果を出していった。ここまで先発出場した32試合の戦績は、21勝10敗1分。8月の時点では「勝率が高いのは試合数が少ないからだ」と話していた指揮官もついに、スワローズが右腕のブキャナンを先発に立てた9月18日の試合で嶺井を先発起用するにいたり、その理由を「守備的な面を重視した」と語ったのだ。
捕手陣の中で打力に秀で、守備の要としても一歩リード。直近10試合のうち7試合でスタメン起用されている理由は、そこにある。
「昔は自分のことに精いっぱい」だった男の成長。
嶺井の成長は、精神的な部分によるところが大きいのだろう。
以前、バッテリーコーチの光山英和は「去年は(ミスなど)悪いことが起きた時に立ち直るまで時間がかかっていたけど、今年はそれがなくなってきて、引きずっている感じがしなくなった」と言っていた。
2015年にバッテリーミスを連発し、雌伏の昨シーズンを経て表舞台に帰ってきた嶺井本人も「昔は自分のことに精いっぱいで目の前のことしか考えられなかった。いい意味で視野が広がった」と心に余裕ができつつあることを自覚している。