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『情熱大陸』が大切にしていること。
PとDが語る“距離感、視界”の作法。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byAsami Enomoto
posted2017/09/17 07:00
最終予選オーストラリア戦で献身的なプレーを見せた大迫。申ディレクターいわく、普段の大迫は「シャイな」好青年だったという。
普段通りの空間、光景がカメラの前で起きると……。
「いかに主人公の視界に入らず、でもいつの間にか、取材対象の近くにいるのが理想なんです。これは私個人の考えなのですが、いい映像以上に、いい音がほしいんですよ。それは試合後にあるインタビューなどではなく、例えばポツリと独り言を口にしたり、チームメイトとのたわいない会話に取材対象の素顔があると思っているからです。だからこそカメラという非日常のものがある中でも、自然な距離感を作っていくことが必要とされます。
今回の例でいうと、登板当日のブルペンを撮った際のことです、数カ月間にわたって彼が取り組んでいる準備のシーンを撮影していましたが、則本選手がキャッチャーやコーチから“今日はこう攻めていけ!”という言葉とともに、背中を叩かれてマウンドへと送り出されていました。これは、則本選手だけでなく周囲の人々も“カメラがある”と意識していなかったからこそだと思います。こういった普段通りの空間、光景がカメラの前で起きると、いいシーンが撮れたなと嬉しくなりますね」
申、板倉ともに、取材対象との理想の距離感を「つかず離れず」と表現していた。
その中でも「大迫選手はシャイだけど、周囲をよく観察しているタイプの人でした」(申)と人間性に気づいたり、「則本選手は勝ったら渾身のガッツポーズを見せる一方で、負けるとネックレスを引きちぎる勢いで悔しがることもありました」(板倉)と、感情をむき出しにする瞬間を目の当たりにする。それは取材してきたプロセスがあるからこそ新たな発見となり、番組制作に落とし込むことができる。
「密着」という文言が目に入るドキュメンタリー番組だが、ただ有名人の近くで撮影していれば番組が成立するというわけでは全くない。アスリートの今をとらえるために、様々な工夫がなされているのだ。